墓穴二つ
「はー……」
特異点からカルデアに持ってきてもらった──わけでは厳密にはないのだろうが、細かい理屈はどうでもいい──隠し湯に身体を沈めて、一息つく。
生前は湯に浸かるときは湯衣を着ていたが現代では違う。郷に入っては郷に従え。そういうものだ。
「まったく毎日ぶっ倒れるまで手合わせじゃ体が保たねぇよ」
カルデアに喚ばれてこの方、生涯の仇敵である長尾景虎が、顔を合わせるたびに手合わせをせがむのだ。逃げるのも矜持に反するのでなんだかんだと受けてはいるが、いい加減疲れた。少しはのんびりしてもいいはずだ。
いくらなんでもここなら景虎も来ないはずだ。
そう思って、盃片手に心身を休めていたのだが。
「探しましたよ、晴信!」
「嘘だろ」
それは耳に馴染んだ声。
思わず振り向くと、そこにいたのは一糸まとわぬかつての仇敵がいた。
「なんか着ろよ!!」
くるりと顔を元の方向に戻す。せめてもの気遣いだ。気付け。
「何も着ないのが当世風です。晴信だって裸じゃないですか」
「俺はいいんだよ!」
「横暴ですねぇ。それより、いいもの持ってますね。私にも一献ください」
ぽちゃんと水の音。
水面に流紋線が浮かんで、揺れる。
白い手が伸びて、盆の上の徳利を奪う。
そしてそのままそれは、俺の腿の上に腰掛けた。
「近ぇよ!!!」
「そんな大声じゃなくても聞こえますって」
聞こえてるなら離れてくれ。
俺の願いは、しかし全く伝わってはくれなかった。
「はー、おいしい」
俺を背もたれ代わりに細い身体がゼロ距離で触れる。腿には柔らかい双丘の感触がある。
「くそ、なんでこうなる」
思わず悪態をつく。
これは長尾景虎だ。生涯を賭けて戦った怨敵であって、女ではない。つくりは女でも、そういうものではない。
「呑まないんですか?」
「呑むに決まってる!」
景虎が差し出してきた盃を一気に煽った。
呑まなくてはやってられない。
「なんか反応鈍いですねぇ。疲れてます?」
「当たり前だろ」
「そうですか。それは困りますね」
嫌な予感がした。
こいつが思案して、事態が好転した試しはない。
「じゃあ晴信! おっぱい揉みますか?」
とびっきりイイ笑顔で腐れ軍神はのたまいやがったのだった。
『大丈夫? おっぱい揉む?』
聖杯ぺディア情報によれば、それはネットミームというヤツで、特に深い意味はない。
それでも、思わず湯にぷっかり浮かぶ白い塊に視線をやってしまった俺に罪はない。
ついでに、カルデアにやってきてこちら、夜の方はとんとご無沙汰だったのも思い出す。
「なーんて、晴信が、っ」
その行動に他意はない。断じてない。
いつも俺を振り回すこの女に少しばかり意趣返しをしてやりたかっただけだ。
湯に浮かべる程度には質量のあるそれを両手でやんわりと掴む。背もたれにされているので容易い。
「ひゃう…んっ」
なんて声出すんだよ。生娘か。いや、そういえばこいつ生娘だった。
やわやわと手の中の双丘を揉みしだく。その度に景虎が小さな声を漏らす。
「んっ、あっ、やぁ……」
心なしか頰は朱に染まり、瞳も潤んでいるように見える。
これは、あれだ。まずい。
そんなつもりじゃなかったのに……とはよくある話である。
俺はそういう感情で景虎に触れたわけではないのだが、この反応を見ていると妙な気持ちになってきた。
「やぁっ!? はるのぶ…っ」
乳首が固くなってきたので摘み上げると、びくりと背が跳ねた。
そのままこねくり回してやると、びくびくと身体を震わせる。
「はぁっ、んあっ」
弱々しい声を上げながら身をよじる姿は普段の狂気めいた戦好きからは想像もつかないほど煽情的だ。
「やぁ、やめ…っ」
「ん? 自分で言い出したことだろう? 逃げるのか景虎」
「逃げる、わけっ、ひゃぁん!」
俺の身体を背もたれ代わりにしているのだから逃げられるわけがない。
逃げようと前のめりになれば、俺の手に乳房を預ける形になる。そうなると俺から与えられる刺激が強くなるだけだ。
「やぁ、そこ、ばっかりぃ……っ」
すっかり固くなった乳首を執拗に責め立てる。その度に景虎の身体は跳ね上がり、水面が波打つ。
「やっ、だめっ」
切羽詰まった声を上げる景虎を無視してさらに強く摘み上げた瞬間─────
「ひゃあああああああっ!」
一際高い声を上げて、景虎は絶頂を迎えた。
「はぁ……っ、はぁ……」
ぐったりと脱力した身体がもたれかかってくる。荒い息と合わせて、ピンと尖った乳首が湯に見え隠れする。
「はるのぶ……」
蕩けた瞳に見つめられて、俺の中の何かがぷつりと切れた。
そんなつもりであろうがなかろうがどうでもいい。ここで据え膳を放置して帰れるほど男を捨ててはいない。
「……っ」
白い首筋に噛み付くように口付けると、小さく悲鳴が上がる。そのまま強く吸い上げると赤い痕がついた。
それはまるで、俺に侵略を許した象徴のようであった。
白い肌に映える赤が扇情的で、もっともっと付けたくなる。
「ちょっ……口付けは許可してな…んっ」
慌てる景虎を無視して次々と印を残していく。その度に小さな嬌声が上がるのが楽しくて仕方ない。
桜色の頂に辿り着くと、それを口に含んだ。
「ふぁっ!?」
舌で転がすように舐ると面白いくらいに反応してくれる。もう片方は指で弄ってやればいい声で鳴いてくれるので退屈しない。
「やっ、やめ……んっ」
口では嫌がっているが身体は正直だ。
蕩けた顔、声。その上、いつの間にか景虎の両足は俺の腿にしっかりまたがって、腰を擦り付けている。
「なんだ、随分と乗り気じゃないか」
耳元で囁いてやると悔しそうに顔を背けた。
「景虎」
名前を呼ぶと、素直に視線を戻してくる。潤んだ瞳が俺を映す。可愛いところがあるじゃないか。
頰に手を伸ばして唇を奪った。
「んぅ…」
舌を絡ませると、応えてくるように舌が伸びてくる。
口内を蹂躙し、歯列をなぞり上顎を舐め上げれば鼻にかかった甘い声が上がる。
しばらく堪能してから解放してやると銀の糸を引いた唾液がぷつりと切れた。蕩けた瞳はすっかり快楽に染まっていた。
「どうして欲しい?」
「……?」
まっさらの未通女は、何を問われているかも分からないのだろう。きょとんとした目で見返された。
「どうして欲しいのか言わないと、これしかしてやれんぞ?」
ぷっくりした乳首を爪で弾くと、甘い悲鳴が上がる。
「ひゃんっ!」
「ほら、どうして欲しいんだ? 自分の身体に素直になって言ってみろよ」
くりくりと指先で弄ぶように刺激を与える。その度に景虎は身体を震わせるが決して口にしようとはしなかった。
意地でも言わないつもりか……ならば仕方ないな。
俺は更に乳房を責めあげる。
「やっ、ああぁっ!」
先程よりも強く摘み上げれば、景虎は背を仰け反らせて悶えた。
俺は乳首に唇を寄せると優しく口付けた。そのまま舌で舐り上げると面白いくらいに身体が跳ねる。
「ふぁっ!? ああぁぁっ!!」
軽く歯を立てると一際大きな悲鳴が上がる。同時に湯がばしゃりと跳ねた。どうやら再び達してしまったらしい。
男を受け入れたことのないこれまで触れられたこともない身体がこうも容易く達するとは、この軍神、こちらの才能も相当のようである。
くったりと力を失くして俺に身体を預ける景虎の頰に口付けると、湯から上がった。
「続きは寝所で、だな」
聞こえてはいないだろう女に囁いて、俺は秘湯を後にしたのだった。