墓参りと散歩
その島は大雪が覆っていた。
冬島の夜。
夜の宵闇を雪のコーティングで
包まれた景色は
遠方から見れば幻想的で
パティシエが作るお菓子を
連想させる。
しかし、現地に住む人間は
そんな事は考えてはいられなかった。
雪の始末に追われる日々を送り
大雪の日に行方不明になる者も
珍しく無い。
高い山を有するこの島で
雪崩の心配にも気を配りながら
彼らはそれでも生きていた。
景色に似つかわしくない薄着。
片手には小振りの酒瓶。
前方の様子すら見えないその中を
彼女は歩を進める。
迷い無く歩いていたが
ピタリと何も無い場所で
足を止めた。
「…ここだったらしいね」
ポツリと呟く。
「あの日、ここでお前が死んだのは」
酒瓶の栓を開けると口を付ける。
「…一先ず国の嵐は去ったよ。」
声が届いているか分からない。
しかし彼女は語り続けた。
「統治者こそ居なくなったが
…何とかやってるさ」
雪を気にせず酒瓶を煽る。
「まあ、あんな馬鹿は居ない方が
良いけどね…」
ふう、と息を吐いた。
…溜息に近かった。
「…酒はやらないよ。
これは墓参りじゃ無いからね。
あたしの独り言さ」
残り少ない酒を見て続ける。
「馬鹿共が居なくなったんで
勝手に住まわせて貰ってるよ」
雪は振り続ける。
風は強くなり吹雪に近い。
「そう言えばお前の置き土産だけどね…」
「ドクトリーヌ!何で外に居るんだ!?」
声を荒げた化物が心配そうに近づく。
青っ鼻のトナカイだった。
「ふぶいて来たよドクトリーヌ!
早く城に戻ろう!」
「…スノウバードの鳴き声を
聞いた気がしてね」
酒瓶を隠しながらくれは
は続ける。
「この雪の中で羽でもやられてたのかと
思って見に来ていたんだ。
あたしの勘違いだったようだけどね」
不器用な言い訳をすると
城へと歩き始める。
「何してんだい行くよチョッパー!」
「待ってよドクトリーヌ!」
チョッパーは
念の為耳を澄ましながら後を追う。
-あたしは湿っぽいのはキライだからね。
話し相手の顔を思い浮かべ
くれはは歩き続ける。
-これは単なる散歩さ。
アンタの置き土産の息子は
宜しくやってるよ。ヤブ医者。
しんしんと雪は降り続け
ドラム王国の夜は更けていく。
彼らの息子が旅立つのは
もう少し先の話だった。