堕葉アイリの苦悩
初めて宇沢レイサと会った時は随分騒がしくもいつ見ても飽きない愉快な子だなと思った
まさかカズサちゃんがレイサちゃんと昔馴染みの腐れ縁で元スケバンとは思わなかったけどそれ以上に無邪気な笑顔で突撃してきたと思ったら急にしょんぼりしてどこかへ行こうとしたりかと思えばスイーツを見て明るく笑うレイサちゃんのことが頭から離れなかった
この時はそれがなんなのか理解できなかったがきっと淡い青春の一つになるような、少なくともそこまで悪いことにならない感情でしかなかった
ある日のことだった元々カズサには多少邪険に扱われることがあったレイサちゃんだったけどその日はたまたまカズサちゃんの機嫌が悪くていつも以上に強くあたっちゃってレイサちゃんは涙目になりながら絶望した顔を見せてくれたのだ
その時の私は明らかに正気じゃなくなっていて本当に周りがレイサちゃんを慰めることに集中してて気づいてなかったのは幸運だった
あの時の私の表情は間違いなく今まででした表情の中で一番邪悪だっただろうと確信できてしまうから
おまけにその時の感覚は一生忘れることはないだろうなって感じた
心の奥底から湧き出てくる今まで知ることがなかった嗜虐心は普通の女子高生だった私には余りにも強烈でそれ以降レイサちゃんのことを普通の友達として見ることができなくなっていたのだ
どうやら私には女の子の絶望顔に興奮する歪んだ感情──愉悦──の素質があったらしくその頃から何かとレイサちゃんのことを少しいじわるすることが無意識に多くなっていた
例えばスイーツをあーんしてわざと自分が食べてしょんぼりさせたり、レイサちゃんがカズサちゃんと話している時に間に入って話し込んで疎外感を浮かべた顔を拝見したりと最初は微笑ましい範囲でやっていたし何より放課後スイーツ部を壊したくなかったからちゃんと自制することができていたんだ
ここまでは青春の光に隠れた心の闇程度の可愛いものだっただろう
だけどそんな儚くも掛け替えの無い日常はあっさりと壊れ歪んでいくのだった
「へへっこの装置さえあればあの生意気なキャスパリーグに目にもの見せてやれるぜ」
「んんー!」
その日私はカズサちゃんに逆恨みした不良に拉致られ監禁されていた
「確かヘイローに直接干渉して好き放題することができる装置だったか?まあいい、コレであのキャスパリーグの居場所を滅茶苦茶にしてやるぜ、まずはを自我を希薄にするところからっと…」
「あぁぁぁぁああああっ‼︎」
拘束され変な機械をつけられた私は機械を起動した瞬間強烈な激痛と自分が自分でなくなるかのような感覚に滅茶苦茶にされていたなか聞き覚えのあるショットガンの音が聞こえて
「杏山カズサの友達に何しているんですか?」
「…すみませんアイリさん間に合わなくて」
いつもどこかほっとけない正義感に溢れた子が真顔でショットガンを相手の脳天に1マガジン撃ち抜いているところを見て、そしてその直後に自分の凶行に怯え間に合わなかったことに後悔した顔を見て私はお腹の中が熱くなるのを感じてしまった
「大丈夫だよレイサちゃん私を助けてくれたのはわかってるから」
この時の私は魔が刺していたんだろう普段の自分であれば絶対にやらなかったであろうことを私は確固たる意志で情動に身を任せて実行した
「アイリさん…」
「だからレイサちゃんは何も悪く無い、ありがとね」
「アイリさん…!」
「…ごめんねレイサちゃん」
「アイリさん…?」カチッ
私はこの日自分の意思で友情を裏切りレイサちゃんのヘイローを滅茶苦茶にしてしまったのだ