堂廻目眩

堂廻目眩


どうめぐりめぐらむ

肉塊の見る夢

ドゥリーヨダナが産まれる直前の話

延々と繰り返される命令の入力



『人間の胎児は、母の胎内に居る十箇月の間に一つの夢を見ている。その夢は(中略)、胎児自身の最古の祖先となっている、元始の単細胞式微生物の生活状態から初まっていて、引き続いてその主人公たる単細胞が、次第次第に人間の姿……すなわち胎児自身の姿にまで進化して来る間の想像も及ばぬ長い長い年月に亘る間に、悩まされて来た驚心、駭目すべき天変地妖、又は自然淘汰、生存競争から受けて来た息も吐かれぬ災難、迫害、辛苦、艱難に関する体験を、胎児自身の直接、現在の主観として、さながらに描き現わして来るところの、一つの素晴しい、想像を超越した怪奇映画である。……その中には、既に化石となっている有史以前の怪動植物や、又は、そんな動植物を惨死、絶滅せしめた天変地異の、形容を絶する偉観、壮観が、そのままの実感を以て映写し出される事はいう迄もない。』




何かブゥンと振動する音のして、延々と微睡む頭はふわりと下界を仰ぎ見る。

繰り返される創世と、このままではいずれ訪れる滅亡。

神が産まれ、世界が産まれ、人が産まれ、人が増え、そうして人の重みに耐えかねて大地が沈む光景のなんともおぞましく恐ろしいことか!

それを繰り返し、繰り返し、繰り返し、繰り返し見せつけられる。

目を塞ぐことは許されていない。なぜなら瞼はまだ形成されていないからだ。

耳を塞ぐことは許されていない。なぜなら手はまだ形成されていないからだ。

叫ぶことは許されていない。なぜなら口はまだ形成されていないからだ。

世界が産まれ、この世の春よと人は繁殖し、蟲のように溢れ返り、その重みに大地がひしゃげ潰れていく。

世界が産まれ、産めよ増やせよと人は繁殖し、蛆のように溢れ返り、その重みに大地がひしゃげ潰れていく。

何度も何度も何度も何度も何度も何度も繰り返す。

脳に刷り込み教えるように、その映像は繰り返される。

だが反応することは許されていない。

その映像を終わらせることは許されていない。

ただもぞもぞと未形成の四肢を動かすことしか許されていない。

なぜならまだ人の形は出来ていないからだ。

ああ、こんなに恐ろしいことのあるものか。こんなにおぞましいことのあるものか!

抵抗出来ぬ頭にその恐怖が叩き込まれていく。


恐ろしい、恐ろしいと胎児はもがく。

おぞましい、おぞましいと胎児はもがく。

胎児にすら未だ成れぬ肉塊が、ぐしゅぐしゅと蠢いている。


堂々廻りに目が眩む。

堂々廻りに目が眩む。

堂々廻りに目が眩み、そして戸惑い面喰らう!


永劫に続く輪廻。

繰り返す度に刻み込まれる命令。

もうその全てが恐ろしい。


胎児はもがく。抵抗にすらなりはしない。小さな揺籃は、決して流れて逃げることを赦さない。


こわい。こわい。

ブゥンと音を立てる振動は、繰り返す度に近くなる。

大地が潰れる。頽れる。

(胎児よ、胎児よ、何故躍る)

そして全てが死んでいく。

(胎児よ、胎児よ、何故躍る)

何もかもが壊れていく。

(胎児よ、胎児よ、何故躍る)

こわい。こわい。恐ろしい。

(母なる大地の心がわかっておそろしいのか)


パキリ、と不意に音が鳴った。

パキリ、パキリ、卵から雛の産まれるように音は鳴り、鳴り響き、そうして。


そうして生温く忌まわしい揺籃は壊れ、肉塊は零れ落ちた。


『ああ、ああ、ありがとう……!』

『産まれてきてくれてありがとう、私たちの大事な息子……』

『スヨーダナ!』


節くれだった手が、それを抱き上げる。

その瞬間取り込んだ空気が、目に映る景色が、耳に飛び込む喧騒が。

その全てがこの先に起きることを思い起こさせて、それが恐ろしくてそれは泣き喚いた。

泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣き疲れて眠って、眠って起きて、その頃には赤ん坊は何もかもを忘れ母の腕に抱かれて笑った。







引用:ドグラ・マグラ/夢野久作(青空文庫)

https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card2093.html




でもこんな感じで使命を植え付けられてたとしても史実旦那はうるせ〜〜〜知らね〜〜〜〜わし様の好きなようにやる〜〜〜〜〜!ワールドイズマイン!イエー!って最後までやって死んだのすげえよ我らの甘やかな光

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