地獄への道は善意で舗装されている 1.5

地獄への道は善意で舗装されている 1.5


ループ開始、ドゥリーヨダナが目覚める前の話



大地の女神、プリトヴィーは怒っていた。増えすぎた人類には勿論だが、手伝いもしない癖に余計な手出はしてくる神々に対し怒っていた。

彼等は言っていた。「戦争を起こそう。貴女の苦痛を和らげる為に、人を減らそう」「丁度いいモノがある。ヴィヤーサが祝福を与えた肉塊だ。それに戦争を起こさせよう」

そう言って神々は肉塊だったソレに手を加え、あちらこちらにそれとなく不穏の種を撒き、然るべき時を待っていた。プリトヴィーとしては、単なる重荷となった人々を減らしてくれるのであれば手段はどうでも良かったのだ。


――神々が余計な事をしなければ。

当人に自覚は無くとも、ドゥリーヨダナはよく働いていた。身内に甘く、敵には容赦なく、欲深く、嫉妬深く、猜疑も深く。なるほど、争いの種となるにはこの上ない人材となった。たとえ悪辣だろうと、彼の甘い光は誘蛾灯の如く多くの人を惹き付ける。

ドゥリーヨダナが戦争の末に死に瀕した際、確かに要求した数には足りないが、彼の働きに多少は譲歩してやってもいいとすら思っていたのだ。


それを、余計な事しかしない神々はやり直せと言った。当人の知らぬままに勝手に役目を押し付け、それが果たせないのなら出来るまでやり直せ、と。

勝手な事ばかり抜かすあの神々をぶん殴ってやりたいとすら思うが、大地の役目を担う彼女にはそれも叶わない。


神々がそう定めたのならば、ドゥリーヨダナは規定の人口を減らすまで何度でもやり直しをさせられるのだろう。プリトヴィーとしても限界が来ているのは事実のため、辞めろという事も出来ないが、神々の勝手で人ひとりに全てを背負わすのも気分が悪い。


ふと、どこからか視線を感じる。薄壁一枚隔てた向こう側、どうやら別テクスチャに存在する神がこちらをこっそりと伺っているらしい。身内の恥を見られていた事による羞恥心、しかしプリトヴィーはそれ以上の好機を感じ取っていた。すでに決定したループは神々の手による定め、人口削減はプリトヴィーも望むオーダーの為手出は出来ないが、他の神による介入なら出来るのではないか。少なくとも、今後苦難の道ばかりのドゥリーヨダナへの手助けとなるものが欲しかった。

こちらの意図を知ってか知らずか、恐らくは女神であろう存在が、ひとつ頷く気配。そしてもうひとつ、気配が増える。


にゃあ。


ひとつ鳴き声、途切れる気配。


猫1匹で何が出来るのだろう。でもこれで、あの子は孤独であることは無いのだ。


いつの間にか、こちらを伺っていた女神の気配も消えている。他国の神への借りを返す算段を立てながら、女神はどこかへと願う。

意図せぬ苦難を歩ませてしまったドゥリーヨダナの行く末に、祝福があるように。


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