在りし日の冒険

在りし日の冒険


 青い空と白い雲、青い海と白い波。

 このところ天気の崩れはなく穏やかな海域を進んでいるらしく目を閉じても鮮明に浮かんでくるほど網膜に張り付いた景色だが、船首部の縁に齧りつき双眼鏡を必死に覗き込むのはそろそろ目的の島が見えるはずだったからだ。先日の小競り合いで手に入れた地図にはドクロマークとバツ印が書いてあった。それが名うての海賊から奪ったものとなればどんなお宝が眠っているか胸がハデに小躍りするのは仕方ないものだろう。


「おいバギー!どこだ?」

「なんだシャンクス、今いいところなんだ邪魔すんじゃねェ!!」

「何って今日の皿洗い担当お前だろ。今代わりにクロッカスさんがやってるぞ」

「そりゃハデに申し訳ねェ」


 クロッカスさんなら後で謝ればきっと許してくれるだろう。謝罪もそこそこに再び双眼鏡を手に持った。隣でシャンクスが双眼鏡を奪おうと邪魔してくるが必死に抵抗すればすぐに諦める。


「……お!あ、あれか?!」


 見渡す限り平坦だった水平線に白い影が浮かび上がる。朧げだった形は徐々に高い山を有した島の輪郭を現して、それに釣られるようおれの胸が大きく高鳴った。一体あの島にはどんなお宝が眠っているのだろう。期待で思わず足が震えだす。


「おれにも見せてくれ」

「だーーー、なにすんだてめェ!」

「へェ、なかなか大きな島だな」


 ひょいとおれから双眼鏡を取り上げると、取り返せないよう身体でガードしながらそれを覗き込むシャンクス。当然むかっ腹は立ったが、もう肉眼でも確認できるほど近づいた島に免じて許してやる。


「なあなあ一体あの計略家の宝はなんだと思う?間違いなくドハデなお宝なんだろうな」

「金銀財宝、と言いたいところだが…こんな穏やかな海域だ。もう誰かが見つけているんじゃないか?」

「夢の無いこと言うんじゃねェ!このハデ馬鹿野郎!」

「なら賭けるか?宝があるのかないのか」

「おう、上等だこの野郎!」


 この世界には偶然誰にも発見されていない無人島が腐るほどあるともっぱらの噂だし、万が一誰かが先に見つけていても宝の地図なしに宝を見つけるだなんて砂漠に落ちた真珠を偶然拾うようなものだ。当然おれはあるほうに賭けさせてもらう。


「島が見えたのかい」

「レイリーさん!ほら、あの島であっているんだよな」

「ああ、確かにあの島だ。ほら、二人ともさっさと乗船準備をして、終わったら甲板を手伝ってくれ」

「任せてくれよレイリーさん」

「おれも、ハデに役に立つぜ」


 双眼鏡をレイリーさんに渡し、お互い何も言わずとも今度は相部屋までどちらが早く支度を済ませて戻ってくるのか競争が始まる。前回はナイフをどっかに置き忘れて負けちまったが、今日は絶対におれが勝つんだ。

 宝はないよりあった方が絶対に良いが、シャンクスと競い合って、みんなで新しい島に上陸して探検することは何よりも胸を高鳴らせる。わざわざ口にするつもりはねェけどな。


 おれは邪魔してくるシャンクスの腕を避けながら、掃除したばかりの甲板の水溜りに注意しつつ大きく腕を振って一心不乱に階下の部屋を目指した。

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