国破れて山河あり
これはピンチです
どうしてこのような部屋割りになったのでしょうか?まあ理由は明白なのですが…
至極真っ当に同じアビドス内で同じ派閥を避け、その上で中毒の深刻さと立場を考慮したということでしょうね
「「…………………」」
しかし、この手腕には天晴れというしかありませんね。共謀を避けるどころかお互いを避けていますもの。
沈黙が支配する空間で食べるのも乙なものですが、流石に気まずさが支配する空間で食事をする趣味はありません
せっかく正常な味覚が戻ってきたのですから何とかして談笑…とまでは行かなくても気分良く食を楽しめるようにならなければ損
よし、とりあえず声を掛けてみましょう
「…好きな食べ物とかありありますか?」
「えっ、妖怪マックスとか?」
美食の道も一歩からと思って踏み出しましたが
───その距離一万里はくだらないといったご様子
正直分かってはいましたよ?差し入れする時も、現場に出突っ張りのキリノさんやその同僚さん達にお渡しするときは歓迎されましたが…本室に持って行くときはさらりと流されていましたし?少々さみしいとも感じていましたけどね?
大抵の生徒の好みを把握しているつもりだった私が、サイダーを飲んでいるところしか目にしていなかった時点で薄々勘付ていた予感が確信に変わります。
彼女は食に頓着しないタイプです!エナドリは食文化ではないと否定するつもりはないですが彼女の価値観は絶対に私と合いません!
どうしましょう…これでは対話の仕方がわかりませんね
思い返せばゲヘナの風紀委員の方たち以外との会話には何らかの“食事”に関する要素が含まれていましたし、そういった要素抜きでは何を話せば…
しかしここでは終わりませんよ
「そっ…そうですか、じゃあ病院食の話でもしますか?ここで提供されるものはどれもよくできていますしね?」
こうやって得意な話題に繋げていけば
「ごめんまだ味よく分かってない」
味蕾まわりは地雷だったようです
自分がもし味覚が治っていない状態でハレさんに質問されてたら泣きじゃくっていたでしょうに…なぜ気が付かなかったのか…
自分が直ったからといって相手もそうだとは限らない
こんな簡単なことにも気がつけないというのはやはり私の思考が正常ではないのでは?罪悪感を打ち消すために思考を巡らせ
た結果
『チガウヨー』
元凶の砂蛇に否定されました
いや絶対あなたのせいですよ、認めてください
『チガウッテ』
“爆破“
『エ¿サイゴニセンデンナンデスケドオアシスニナタワレチョウウツクシ…ウギャ〜』
はいはいアビドス廃校対策委員会の方がHPに挙げていたものですよね?もう見ましたし、実物も退院すれば目に焼き付けるつもりですから
まったく…元凶なら元凶らしくもう少し慎ましく過ごしていてくださいませんかね?
さて悪は滅びましたがなに一つとして問題が解決していません
何なら少し冷めた目で見られているような気さえします。負い目からそう見えるだけで、実際はそうではないのが分かっているからこそかなり辛いです。どうにかしたい、どうにかしないと耐えられない…というほどではないですが疲れます。非常に疲れます。何なら相手も私に急に話しかけられてあまり良い気分ではないのかもしれません。
「私としたことがデリカシーがない質問をしてしまいました」
「謝ればすむことではないかもしれませんが…それでも深く謝らせていただきます」
私の真摯な姿勢を受け入れてくれたのか目の前の彼女の口元が緩み、表情に光が灯ります。どうやら好感触だったのでは?
「いいよいいよ、というか謝れば許されることじゃないってヤツはハルナさんだけじゃなくて私もたくさんやらかしたじゃん?」
悪気ない彼女の一言は、私(おそらく彼女も)がいるベッドを凍てつかせるには十分な破壊力で…
温度が一定のはずの病室が酷く凍える牢獄のように感じました