固茹で
真っ暗だ…
何にも見えないし聞こえない。賞賛と快感に目が眩んだ『本官』にはぴったりの末路。
きっとアルちゃんも最後はおんなじだったんだろう。あんな『私』には勿体無いいい子が自分と同じ結末を辿ったなんて笑えない。『本官』のような悪党が人を傷つけて、苦しめて、最低な行いを繰り返したのにこんな安らかに終わるあたり…つくづく善人というのが報われない世界。
あれ
なぜだろう?気分も意識も沈んでいくのに視界が明るくなっていく。
(走馬灯というやつなのでしょうか、思い出を辿れるなら…『私』にちょうどいい罰かもしれないです。)
完全に澄み切った意識の中、眼前に広がるのは見慣れた路地の風景
(これはいつものパトロールコース?ここを歩きながらしっかり反省して地獄に行きましょうっていうことでしょうか。なるほど〜こういうのなれてない人でもOKな親切設計ですごいなぁ。)
市民の皆様の喋り声や路地の喧騒、なんならどこからともなく聞こえてくる銃撃戦まで鮮明に再現されたその道を進んでいく『本官』。なんだか今だけヴァルキューレに戻ったような気がする。思い出の中の人物は誰も『私』に声を掛けてくれないけど、それがかえって心地良い気がする。いくら『本官』の妄想とはいえ、こんな『私』がどんな顔して話したらいいか分からないから。
だけど…少しだけ寂しい…
カンナ局長もフブキも、ヴァルキューレのみんなはどこにもいない。
(一人ぼっちのパトロールですね、慣れてたつもりだったのに今はこんなに辛いなんて…最後まで甘ったれだって叱られちゃいます…)
まあ地獄的な場所に行くんだから一人なのは良いことだ!なんて『本官』で『私』を励ましながら無理やり進んでいくと
───小さな女の子が駆けてくる
「お姉ちゃ〜ん」
自分のことなんかではないとわかっていてもついつい目線を合わせてしまう。
なんて『私』に甘いんでしょう。そんなことする権利なんてないはずなのに。
まだ『本官』を捨てられていない、あまい甘いアマイ『私』
そんな『私』を…彼女はすり抜けていった
そっか
そうだったんだ
やっと理解した。
いるはずがないんだ『本官』は、最初から警官の巡回経路なんかに。だから声を掛けられなかった。すり抜けられた。だっていないんだから。
ヴァルキューレになんて所属する資格はないし「正義」だのなんだのは全部薄汚い本性を隠すための嘘。功績を上げようとしたのも、子どもたちの前に立ったのも全部全部自分のためで…子どもなら自分の欲望に気が付かないとでも思ったのかもしれない。程度の低い犯罪者らしい愚かな考えで『私』のことなのに笑ってしまう。
(逸れなくちゃこの道から、ここにいてはダメです。早くここから『本官』の持ち場から一刻も早く離れなくては)
ここで死んだらまだ綺麗な人たちまで穢してしまうだろう。どうにか…なんとしてでも出ていかなくては…
ふと視線を下に落とす。目線さえも逃げ出すように。
熱に茹だされ焦る『私』の手に───鎖が巻き付いていることに気がついた。
罪人に相応しい道具を見て
(これを辿れば私が行くべき場所に辿り着ける?誰にも迷惑をかけずに終わることができる?)
なんて自分本位に考えてしまう。考えてしまった。
鎖の先をひたすら目指す、もう何も考えたくない。
惨めな罪人の足元を見下ろす、もう何も見たくない。
『私』が必要だって…呼んでる声がする、もう何も聞きたくない。
辿り着いたのは何にもない砂漠。よかったやっと戻って来れた。
砂で出来た牢獄が『私』が本来いるべき場所。やっと辿り着いたお似合いの墓場。
砂像の囚人たちは口々に『私』を称える。やっと手に入れた偽物の賞賛。
全身からじゃらりと垂れる鎖の重さは…まるで最初から『私』に纏わりついていたようでよく馴染む。
いや違う
見えないだけでずっうううと縛られていたんだ。
(…ああ…やっと本当の『私』になれた気分です)
体が水に浮いてるみたいに自由になったような、そんな感覚
もし、もしもう一度目を開いたら手始めに
「繝。繝弱?繧ィ繝弱じ繧ウ繝峨Δ繝イ繧ォ繧ソ繧ケ繝医す繝ィ繧ヲ繧ォ」