囲い込み

囲い込み

「すまんが扉間はオレのものでな」

「兄者」

「扉間、今日は早いな」

「明日から冬期休暇だ」

「成程、それで」

本当はそんなことは知っていたが初めて聞いた風を装って答える。疑うことを知らない扉間が、不自然に外に居た自分を気にした様子もなく、寒くないのか、と気遣った。大丈夫だ、と言って扉間の頬を触る。扉間が気持ちよさそうに目を細めた。腹の底に漂うどうしようもない独占欲と前世から溜め込んでいる男としての愛がゆらゆらと揺れる。

「兄者の手は温かいな」

「お前が冷たいだけだ。ほら家に入るぞ」

扉間の両親が滅多に家に帰らないことを良いことに自分の家に引き込む。それを咎める者は居ない。両親は海外に移住したので。その費用を払ったのが自分だと言うことは誰も知らないが。知られたとしても両親の願いを叶える息子としかならないので痛くも痒くもない。唯一違和感に気付くであろう扉間は記憶を持っていない。

「流石にそろそろ家に戻らないと」

「何か必要なものでもあるのか?」

「無い……と思う」

言いたいことを解っていてわざとズレた返事をする。夏季休暇から今日まで扉間を実家に帰していない。正確には掃除や服や教科書の回収以外の出入りがない。光熱費が掛かっていないことに気が付かないような両親なので、拠点をこちらに移させるのは簡単だった。生活費を振り込むだけの存在が両親と言えるのかは若干怪しいが。扉間が持前の優秀さで学費が免除されているので余計に。

「どうせオレも一人だ。気にせずとも良い」

ほら、早く着替えろと促す。何か言いたそうな雰囲気を見せながらも黙って扉間が部屋に向かった。その間に、リビングに向かい暖房を付ける。前世と比べて身体が弱くなった扉間に風邪を引かせるわけにはいかない。雪がちらちらと降り始めているのがカーテンの隙間から見えた。カーテンを少し開け外を眺める。

「雪か」

「うむ。明日には積もりそうだの」

「困るな」

扉間の方を見る。窓の方を熱心に見ていてこちらの視線には気付いていない。外に出る用事でもあるのか、と訊きそうになるのを抑え、代わりに、どう困るんだ、と努めて優しく訊いた。漸くこちらを向いた扉間が、明日会いたいってクラスの男子に言われたんだ、と言った。

「仲がいいのか?」

「いや、全然」

「なら、二人きりは止めておけ」

「何故だ?」

「変な因縁だったらどうするつもりぞ?」

十中八九告白だと解っていたが悪い想定を口にする。目立つ容姿の所為で絡んでくるものはそれなりに居るので、扉間が納得したかのように頷いた。誰か別の人間の名前が出る前に、心配しなくともオレが付いて行くと言う。そもそも、行かせる気はないのでとんだ嘘だが。

「なら頼む」

「任された」

カーテンを閉め扉間の手を引きソファに座らせる。いつもと違う雰囲気を感じ取ったらしい扉間が、兄者?と戸惑ったような声を出した。それを無視して、白い頬を両手で掴みこちらを向かせる。赤い瞳が不安そうに揺れた。そのまま唇を重ねる。二度、三度と繰り返す。瞳が潤む。その瞳を前世他の男に見せたかと思うと腸が煮えくり返る。扉間が他の男に奪われたことも、他の男に選んだことも。

「嫌か?」

「嫌、じゃない」

「じゃあ、もう少し先に進むぞ」

少し開いた唇から舌を入れる。驚いて逃げる舌を捕まえて、吸う。自分の腕に縋り付く扉間の背を撫で、舌を絡める。蕩けた赤い瞳が自分を見た。今すぐ押し倒したい衝動に駆られるが、ここで怖がらせてはいけないと堪える。理性の限界が来る前に唇を離す。

「扉間、オレと付き合おう、な?」

「あにじゃと?」

「ああ」

まだ酸素が頭にいっていない扉間がぼんやりと自分を見る。首を縦に振れば良いと囁く。扉間がコクンと首を縦に振った。無理やり振らせたと解っていても、今更逃がす気はなかった。

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