回想、追憶、思い出話
アタシは、1人だった
流魂街にいた子供の時の話。長いことずっと1人で生きてきた。
アタシが居たのは北流魂街の58番目、下から数えた方が早いし、ぶっちゃけ治安は悪い場所だった。盗みや騙し合いなんて日常茶飯事、むしろそっちのほうがまだマシな部類なくらいには…あそこは酷かったわ。まぁ大人相手にからかって逃げたりとかは面白かったけれど
基本的に、子供はあそこでは誰かの庇護に入ったり、子供のグループを作って生き抜く感じだった。
アタシはこの目が気に入っているけど、周りからは気持ち悪いだのなんだの言われて、誰も助けてくれなかった
とはいえ、腕っ節とこの脚の速さには自信があったから弱肉強食の流魂街でもなんとか、生きて行けた
……けど、1人でずっといて平気なほどアタシの心は冷めきってもいなかった。何だかんだでさみしかったのよね、子供だったし
それでもまぁ、1回だけ仲間が出来たのよ。話しかけられたのも、仲間ができたのも初めてだったからあの時は必死で仲間守らなきゃ〜!って柄にもなく頑張りすぎてねぇ
まぁ…最後は裏切られたって言うか、捨てられたというか…あれは今でも思い出せるわね…
「なーんてこともあったのよねぇ…
ってやだアタシったらなにこんな話しちゃってるのかしらね!?
ごめんなさいね、お酒の席でこんなしみったれた話しちゃって!」
時間が空いたから藍染副隊長と一緒にお酒呑んでいたらついポロッとこぼれてしまった。
あー…これはやってしまったわね…
いつもならどんなに酔ってもこんなこと言わないのに
…流石にやらないといけない書類の処理してたからストレス溜まってた…?本当に書類仕事って嫌い……頭痛くなっちゃう
あとこれは、藍染ちゃんの雰囲気のせいかしらね…なんか話しやすくてホント要らないこと言っちゃったわ、気分悪くしてないといいのだけれど…と考えながらチラッと藍染の顔を伺う。嫌な顔しているのかと思ったが、予想を裏切って藍染は優しい顔をしている。
「いえ、驚きはしましたが興味深いなと。貴方は自分のことあまりにも言わないですから…」
「そりゃ聞いたところで面白いものなんてないんだから言わないわよ。嫌じゃないの?こーいう話」
「僕は気にしませんよ。春野さんが心を開いてくれた気がして嬉しいです。
それにいつも貴方は隊長や他の人と話す割には誰にも心を開いている様子が無かったですから」
「やっだめっちゃくちゃ見られてる。藍染ちゃん人間観察得意なの??末恐ろしいわねぇ…」
酒をあおりながらそんな話をした。死神なってからこの話は一切誰にも言ってない。
ずっと隠しておくつもりだったものだったからなのか、胸の中にあった靄が多少消えた気がする。
多分これは…
「まぁ…そう言ってくれてありがと、拒絶されてたらちょーっとだけへこんでたかも
あとなんかスッキリしたわ!やっぱり溜め込むと良くないわね!!
というかアンタ絶対モテるでしょ。結婚式やるのか分からないけどやるんだったら呼びなさい?お祝いの品たっっっくさん持っていくから」
「結婚はまだいいですかね…」
「なーんでよ!よりどりみどりでしょ藍染ちゃんの場合!」
「する気がないので…それより飲みすぎですよ春野さん。明日もあること忘れてませんか?」
「お酒飲んでる時に仕事の話はいーやっ!やめてちょうだい!
あとスーちゃんって呼んでくれてもいいのよォ?それかスージーって
…というか明日ってアレでしょアレ、新しい十二番隊の隊長さんの式典?詳しくは知らないけど」
「それもありますが、春野さんはまだ書類仕事ありますよ。サボり過ぎです。」
「やる気出ないんだもの〜〜!藍染ちゃん手伝って!!」
「僕にもやるものあるんですが…?」
「いいじゃないの!ここ奢るから!ほら飲むわよー!!」
「…はぁ、仕方ない人だな…酔いつぶれても運びませんからね」
「んなのわかってるわよ、というか藍染ちゃんアタシの場所しらないでしょーが」
「それもそうですね」
飲んで、酔いつぶれる前にお店を出て帰路につく。
…藍染ちゃんにちょっと飲ませすぎちゃったかもと思ったけど大丈夫でしょ。多分。歩けてたし…
…明日しじみの味噌汁作って持ってった方がいいかしらね…
そんなことを考えながら夜道を進む、風が酒で火照った体を冷ましてくれる。
『誰もアンタみたいな気持ち悪いやつの事なんて好きになるわけないでしょ』
………懐かしいこえが、夜風に乗ってきこえたような気がした。聞きたくもない声
まだ忘れていない、忘れられない呪い
いい気分だったのに、思い出してしまった
……わかってる、言われなくても
「でも、少しくらいは…いいじゃない
はぁ!さっさと帰りましょ」
誰に聞かせる訳でも無く声は零れ、溶けていった