四人目が増えた日
長老不気味に赤く光る満月が、夜の帳が下りた空に浮かんでいた。
月明かりに照らされ、惨状がより禍々しく映し出される。
折り重なる兵士の死骸。地面を赤く染める真っ赤な血。投げ出された内臓にあちらこちらに散逸する手足に指、頭部。
掛け値なしの地獄で、その少年は死骸の山の頂点にいた。
牙を剥き出しにして人間の死体を貪り食らう悪鬼の頭頂部には三角の耳がついている。肉を食らいながらもぴくぴくと絶えず動いていて、警戒を怠ってはいない。
そうだ。少年は決して油断していなかった。
誰が来ようと負けるつもりはなかったし勝利を絶対だと確信していた。
その自惚れが、赤に阻まれ砕け散った。
「──おうおう、これはまた。派手にやったのう、狼小僧」
静寂を裂く男の声に、悪鬼の少年はぶわりと警戒を露にする。
気が付かなかった。
足音一つ、気配一つ感じ取れなかった。
咥えていた手を放り投げて、ひ弱な男に踊りかかる。
強靭な体は持っていない。特異な技術は特にない。隠せるほどの技量は持ち合わせていない。
そうだ、負ける道理などなかった、はずだった。
「はい残念」
「──⁈」
後ろから四肢を絡めとられ、身動きがとれない。
どういうことだ。そこにはなにもなかった。そのはずだ。
だというのに、大柄な骸骨が立っている。とうに死んだ姿で、確かに動いて少年を拘束していた。
こうなっては爪も牙も意味を為さない。
マゼンタ色の髪の男が口角をあげ、少年に近づいた。
「ここのところ碌な死体がないからな。今回はどうかと思っとったが」
「いい拾い物をした。お前、私と来い」
否定意見など聞く気はないとばかりに、少年は骸骨へとしまわれた。
静寂を取り戻した荒野を一瞥して、男もまた帰路へ着く。
その日、戦場から遠く離れた地で血の繋がらない兄弟が増えた。
「新しい弟だ。名前はリュカ」
「殺し合いはご法度だぞ、お前たち」
綺麗に洗われた子どもの獣人を前に、二桁前後の少年たちは口々に声を発する。
リュカは灰色の毛並みと金の瞳でそれを見て、おとなしく挨拶を返した。
屋敷に着いてから洗われるまで、散々暴れても敵わなかったため、それまでの自惚れも自信もプライドも粉々にへし折られていたためだ。
別れがもう数年に迫っていた、そんな時分だった。