四つ巴バトルロイヤル

四つ巴バトルロイヤル

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個人四つ巴バトルロイヤル 一回戦試合前


界境防衛組織ボーダーでは隊員の戦闘能力の向上やモチベーションの維持のため、偶に職員がイベントを企画することがある。

この日も、とあるボーダー職員たちがイベントを開催せんと企画考案をしていた。


「参加者は増田隊、一条隊、桐谷隊、陳隊、愚榴間隊、水瀬隊、久木隊、樋口隊、山本隊、岡崎隊の狙撃手、特殊工作兵以外の戦闘員。計二十八名か。試合形式はどうしましょう」

「四つ巴の二名勝ち上がりでいいんじゃないですか?」

「四つ巴で七グループ、二名勝ち上がりで計十四名勝ち上がりですか?」

「はい。ただし、一回戦で三位だった隊員から一回戦の結果を考慮して敗者復活枠を二名を選出。二回戦はそれを含めた十六名から四つ巴の二名勝ち上がり。準決勝で残った八名を同じようにして四名まで絞って、決勝で優勝者を決める」


──四つ巴バトルロイヤルです!


【ルール】

・四つ巴のバトルロイヤル

・28名→16名→8名→4名→優勝と人数を絞っていく

・二名勝ち上がりだが、Most Bailout賞(最も多くの相手をベイルアウトさせた隊員に贈られる賞)やイベントMVP賞(イベントを通じて最も活躍した隊員に贈られる賞)の審査の為に順位が決定するまで勝負は続く

・狙撃手用トリガー、バッグワームは使用禁止

・組み合わせは完全ランダム


『それではグループAのメンバーを発表する。選出された隊員はメールで指定されたランク戦ブースに向かうように』


スピーカーから流れ、一条隊の隊室に響き渡る職員の声に、一条隊の隊員は身構える。

直後、ブーブーと鳴るバイブレーションにその場にいた全員の視線が集まる。


「はぁ、一番手はうちかいな」


そのスマホの持ち主は一条安寿。彼女は気だるげな様子を見せながらも席を立ち、メールの中身を見て言う。


「ほな、一足先に行かしてもらいますわ」



「あたしグループAですって! 早速行ってきます! って痛ったぁ!」


時をほぼ同じくして岡崎隊の隊室で那珂川が叫ぶ。勢いよく立ち上がったせいで足の小指を机の足にぶつけてしまったようだ。

大丈夫?と心配して駆け寄る岡崎恋に那珂川は「だ……大丈夫です……」と普段の彼女からしたらとても大丈夫ではなさそうな返事をする。


それから数秒が経ち痛みが癒えた頃、そういえば、と那珂川は声を上げる。


「志野塚さん、松野さん。お二人はこのイベントで当たりたくない相手っています?」

「……? どうしたの、急に」

「いや、なんか嫌な予感がしてですね……。先に聞いといたら心の準備も出来るかなって!」


那珂川の空元気と意味不明な理論に仲間達は呆れつつ、しかし彼女の為ならと悩み答える。


「俺はそうだね……同じ銃手としてあの人とは当たりたくないかな」

「あの人?」



「ここであってるよね、多分」

「来栖さん! お久しぶりです!」

「あ、那珂川さん。グループAの対戦相手になるのかな? よろしくね」


那珂川は一番最初にブース前に集まっていた男、来栖流一の言葉に勢い良く返事をする。

那珂川は来栖が対戦相手の一人だと知ると、今日は本当についてないなあと心の中で呟く。


彼女は自分自身がついていないことを知っている。

A級部隊のエースである来栖が相手だと分かって尚嫌な予感が引かない自分が、志野塚の言葉が現実に向かっていると確信している自分が、本当についていないことを知っている。


──志野塚が挙げた相手は来栖ではない。


「これは、皆さんお揃いで」

「はー、やっぱそうなるかあ」


那珂川は声のした方向を見て大きくため息を吐く。

こちらに向かって歩いてきている一条妹──その後ろにいる大きな影に。



「ほな、一足先に行かせてもらいますわ」

「安寿、待て」

「?」


安寿を引き留めた柊木は自らのスマホの画面を見せる。


「どうやら、俺も同じグループらしい」

「……これは一筋縄では行かなそうやな」


『同じ銃手として柊木さん、あの人に勝つのは相当難しいだろうね』


グループA

B級一条隊銃手、一条安寿。

B級岡崎隊攻撃手、那珂川橘。

A級増田隊エース、来栖流一。

B級一条隊銃手、柊木洸牙。


『それではグループBのメンバーを発表する。選出された隊員はメールで指定されたランク戦ブースに向かうように』


「あ、メールがきました。陳隊一番手はチェンさんになりましたね! いってきます!」

「いってらっしゃーい」

「頑張れー!」

「皆さんも頑張って!」


「俺ももう出番だそうです。いってきますね」

「崎守くん、油断と相手の過大評価だけは気を付けてくださいね」

「ありがとうございます。万里さんも大丈夫だとは思いますが、気をつけて」


「さて、と。どうやら私の番らしい」

「桐谷隊のトップバッターは明智さんか」

「明智さん、頑張ってください」

「まあ、なるようになるさ」



「──俺に任せろ。皆の分も勝ってくる」



「陳さん、明智さん。今日は胸をお借りします」

「こちらこそ、お願いしますよ! 永治くん」

「ここまで銃手三人か。穏やかな試合展開が予想されるね」


そんな環境に配置された、異物。


「……そうなればよかったんですけどね。オペのライングループで連絡が来たそうです。最後の一人の名前が」

「ほう?」


そういって陳が岡崎愛から送られてきたラインの画面を見せようとした時、カツン、と彼らの背後で音が鳴る。

カツン、カツンと徐々に近づいてくる足音に三人は思わず振り向き、目を見開く。


「遅くなりました」


高い身長、広い肩幅、圧倒的な威圧感。

攻撃手最強格の一角である男、山本イーグルの登場に崎守は無意識に一歩後ずさる。


「遅かったじゃないか。どうしたんだい?」


無遠慮な明智の言葉に山本は自身の握り拳を見つめながら答える。


「すみません。俺の両肩に隊や皆の評価が乗っかっている。そう思うと少し」


その言葉に崎守は自信の敬愛する隊長の姿を思い浮かべる。

一条隊の隊長である一条万里は隊長でありながら、部隊のエースでもある。ゆえに隊の、特に悪い評価の多くを彼女が一身で受けてきた。

だからだろうか、そう考えた崎守の隣で明智は違うことを考えていた。


「なるほど、山本隊の戦闘員は君を除けば特殊工作兵と狙撃手のみ。つまりこのイベントに山本隊として参加しているのは君だけになるのか」

「そうですね。俺が負けたらそこで終わりというプレッシャーもあります」


しかし、そう言いながらも山本はどこか楽しそうな雰囲気に見え、崎守は、やっぱり理解できないなとかぶりを振るう。


「けど、それが嬉しいんです。不純かもしれませんが、何者でもなかった自分が誰かの為に戦えるということが」


だから、と山本は言葉を区切り、顔を上げる。


「いつも通り、勝たせてもらう」


山本の言葉と共に再び緊張が走る。


グループB

B級陳隊隊長、陳磊。

B級一条隊銃手、崎守永治。

A級桐谷隊銃手、明智明。

B級山本隊隊長兼エース、山本イーグル。


『それではグループDのメンバーを発表する。選出された隊員はメールで指定されたランク戦ブースに向かうように』


『松野さんは誰か当たりたくない相手とかいます?』

『そうだな……意外かもしれないけど』


そう言って松野が指差した資料にかかれた人の名前は、志野塚からすると本当に意外な人物だった。


『彼女かな』


「橘ちゃんの運の悪さが移ったかな」


志野塚はつい先ほどまでの会話を思い出してふふっ、と笑みをこぼす。

松野の挙げた“彼女”のところのオペレーターはキャラに反して連絡が早いらしく、岡崎恋から送られてきたラインには“彼女”含めた二人の名前が綴られていた。

志野塚が集合場所に着くと一人の男が先に到着していた。


「志野塚、今日はよろしくな」


そのガタイの良さは長年見てきた。通っている学校は違えど同学年でボーダーでは同期。

そして、全ボーダー隊員を含めて高校三年生唯一の万能手、白岩虎。


「白岩か。こちらこそ胸を借りさせてもらうよ」


志野塚の言葉に白岩は「ああ」と答えて、志野塚の背後に現れた男女の姿に気づく。

その様子に志野塚も背後を振り返ると、現れた男もすこし気まずげに声を掛ける。


「僕達が最後かな。今日はよろしく頼むよ」


そう言って現れたのはこのグループ二人目の万能手にしてA級部隊の隊長、桐谷伊蔵。

そして。


『隊長としては……頼りがいがあるとは言えなかったけど、射手として彼女の実力は流石A級隊員だと思わせるものだったよ』


「遅れてすみません。存在に気づいてはいたんですが、ブースが見つからなくて」


紀坂凛花。SEは空間把握。

そして紛れもなく、参加者内最強の射手。


A級桐谷隊隊長、桐谷伊蔵。

A級桐谷隊射手、紀坂凛花、

A級増田隊万能手、白岩虎。

B級岡崎隊銃手、志野塚清人。


(ここでは紛れもなく全員格上……!)


勝ち上がるにはこのA級隊員たちと戦い、上位二位に入らなければいけない。

志野塚清人の挑戦が始まる。


『旅することとは生きることだ』

──ハンス・クリスチャン・アルデルセン


その言葉を教えてくれたのは誰よりも頭がよくて誰よりも頼りがいのあるあたしたちの隊長だった。



ちょうど数分前にグループEのメンバーに選ばれた愚榴間がいなくなった愚榴間隊の隊室では重い沈黙が漂っていた。

愚榴間隊は狙撃手が二人いるという構成上、四人部隊ではあるのだがこのイベントに参加するのは愚榴間と鮫島のみ。

ゆえにあとは鮫島のグループ振り分けを待つだけなのだが、空気は未だ重い。


鮫島はそんな重い空気を切り裂くように立ち上がる。


「……早歩さんは大学生になってもぼーだーは辞めないんでしょ?」

「そうだね。三門市を出るつもりはないし、少なくとも大学卒業まではいるつもりかな」


鍵崎の言葉に鮫島は少し頬をほころばせ、けれど再び泣きそうな表情を浮かべて言う。


「けど、ぐるまはそうじゃないんでしょ?」


純粋無垢な鮫島の言葉に他三人はまた口を紡ぐ。

分かっていたことだった。愚榴間彰一という存在の凄さ、大きさ、大切さ。けれど、それは分かっていた気になっていただけだった。

愚榴間は県外の大学に進学することが決定していた。ボーダーでの戦績はあまりぱっとしないが、世間的に見たら優秀どころの男ではない。

鮫島は幼い頭で必死に考え、もしかしたらと思っていた。もしかしたら、自分が彼らの足を引っ張っているんじゃないかと。

だから……。


「ぐるまがぼーだーに入ってよかったって思えるように、あたし達が一番強いんだってしょうめいするために」


『それではグループFのメンバーを発表する。選出された隊員はメールで指定されたランク戦ブースに向かうように』


届いたメールを仲間に見せるように差し出して言う。


「勝つんだ」

『貴方はグループFのメンバーに選ばれました。下記の個人戦ブースに集合してください』


それがたとえ、修羅の道だとしても。




「はあ、運悪いなあ。水瀬さんも結構無理難題言ってきたし、果たしてこのメンバーで私は勝ち上がれるのか……」

「いつもは味方だが今日は敵だ。川井、俺は騎士としてお前に与さず公平に立ち回ることを誓う」

「川井ちゃん、知ってる?俺と金剛さんって同期なんだよ。ってか今日の恰好可愛いね」

「あはは、ありがとうございます」


鮫島と同等の速度と、彼女以上の攻撃力とトリオン能力を誇る、水瀬隊の矛。

中遠距離の戦闘をあまり得意としない水瀬隊でその矛と心臓を守る、水瀬隊の盾。

部隊単位でのスピード戦闘を得意とし、高いアベレージと戦闘経験を誇る、陳隊の剣。


鮫島にないものを持ち、鮫島と相性がいいであろう三人を相手に彼女は。


「言っとくけど、今日はあたしが勝つから!」


躊躇や恐怖など微塵も見せずに、ただ自分が勝つと信じている。

歪んでいた輪郭線は凛と元通り。

鮫島歌音は旅に出る。


グループF。

B級水瀬隊万能手、川井龍子。

B級水瀬隊攻撃手、金剛崇人。

B級陳隊攻撃手、桔梗隼也。

B級愚榴間隊エース、鮫島歌音。



「増田さん、これ。オペのライングループで回ってきました」

「うわ……なるほどね。佐々木ちゃん、ありがとう」


「ん、榊さんからラインが……。へぇ、これは楽しくなりそうですね」


「松野さん。残念ながら余り物には福なんてなかったようですね」

「……これも橘の不運だと思う?」


そういって見せられたラインの画面に彼らは三者三様のリアクションを見せる。

最後の一人は、果たして。


「龍ちん、金剛さん。勝ってこい」


水瀬の言葉に二人は手を上げて返事をする。

隊員が三名もいるのに誰もグループFまで読み上げられなかったせいで(もしかして申し込み忘れてた……?)と焦っていた佐野を傍目に水瀬は小さく独り言ちる。


「さて、次でラストか」


『それではグループGのメンバーを発表する。選出された隊員はメールで指定されたランク戦ブースに向かうように』


それから数秒後、スマホに届いたメールで集合場所を確認した水瀬は立ち上がり、ブースに向かうついでに佐野に指示を出す。


「さーやは二人のグループ見といて。一人、オレと相性が悪いのがいるから、もし勝ちあがったら情報頂戴」

「え、でも水瀬さんのグループだって油断できない──」

「さーや」


心配から来る佐野の言葉を水瀬は遮り、ふっ、と軽い笑みを浮かべて振り返る。


「オレが負けると思うか?」


グループG

A級増田隊隊長、増田太。

B級一条隊隊長兼エース、一条万里。

B級水瀬隊隊長兼エース、水瀬一。

B級岡崎隊エース、松野佑助。



「あれ、わざわざ二位争いするために随分気合入ってんすね」


180㎝弱の長身たちが集まる中で見下ろしながら、準優勝取れたらいいな、と更に煽る水瀬の言葉に約一名即座にキレだしそうな人もいたが、寸でのところで怒りを抑え、彼らは仲間とした準備対策を振り返る。


『水瀬ですか。遠征選抜試験で同じ部隊になって分かったのは、やっぱり序盤の弱さですね。特に射手の攻撃には弱そうでした』

『さて、次の対策は水瀬さんやな。まあ、あの人に関してはランク戦同様あんま考えんでも脅威やない序盤で狙えば問題ないやろ』

『もし水瀬くんと対峙することになったら最序盤がオススメですよ。試験ではそれで大分苦労させられたので』


狙いは一つ。


「せいぜいオレのMOST BAILOUT賞の糧になってくれよ」


(まずは水瀬くんを)

(仲間に甘やかされた)

(生粋のスロースターターを)


(((討ち取る!)))


バトルロイヤルが始まる。




上で扱えなかった(ストーリーが思い浮かばなかった)グループC、グループEについて


グループC

A級桐谷隊エース、伏見七瀬。

B級樋口隊エース、仁科紡。

B級久木隊隊長、久木硝。

A級増田隊射手、及川喜一。


グループE

B級樋口隊攻撃手、熊谷遥斗。

B級久木隊万能手、竜宮潮。

B級愚榴間隊隊長、愚榴間彰一。

B級陳隊エース、辰井真弓。


・組み合わせダイス

・対応表

1.増田

2.及川

3.来栖

4.白岩

5.一条姉

6.一条妹

7.柊木

8.崎守

9.桐谷

10.伏見

11.明智

12.紀坂

13.陳

14.桔梗

15.辰井

16.愚榴間

17.鮫島

18.水瀬

19.川井

20.金剛

21.久木

22.竜宮

23.仁科

24.熊谷

25.山本

26.那珂川

27.志野塚

28.松野



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