囚われの隼

囚われの隼



その特殊な趣味に気が付いたのが偶然だった

トレーナーさんのお部屋にお邪魔した時に1冊だけ本棚の端から飛び出していた本

そこに描かれていたのは縛られた女の人とそれを責める男の人

そういう関係性がある事は知っていたけれど、実際に目にするのは初めてだった

何故かドキドキして、目が離せなくなって、その2人がとても幸せそうで

そして次の日、トレーナーさんに首輪を持って行った時から2人だけのちょっと変わった関係性が始まった

月に一度の“ご主人様の日”

トレーナーさんの家で2人だけで特殊なプレイをする日

痛かったり跡が残ったりする内容は無し、まずは恥ずかしかったりちょっと苦しかったりする事から、終わりのサインも用意して色々な内容を試して来た

今日もまた、いつものように身体を奇麗にして、汚れたり皺になっても良い服装に身を包んで、トレーナーさんの責めを受け入れる心を準備して……

それに加えて今日はもう一つ


「トレーナーさん、今日はこれを使って欲しいな」

そういって差し出したのはフリルのついたカフスを鎖で繋いだ手枷

たまたまネットで見かけて今日の為に用意したグッズ

いつもはトレーナーさんの用意した縄で縛られるけど拘束されている姿も可愛く見られたいファル子が用意した物だ

「うーん……まあ、大丈夫でしょ。分かった、用意してくるから先にベッドで待ってて」

(……今日もドキドキしてきちゃった……)

もう何度目になるか分からないけれどこの日が来る度に緊張してくる

ベッドに横たわってその時を待っていると、道具を抱えたトレーナーさんがファル子の横に座って、手早く頭の上で両手を縛める

今日は脚はそのまま、最後に目隠しをして……

そしてトレーナーさんの両手がファル子の喉元を優しく締め上げる

「うっ、うんん……んっ……!」

暖かくて、苦しくて、けど気持ちよくて、頭がほわほわして……

薄れていく酸素に手足が勝手に動き始める

右手が逃げ場を求めて動けば左手を縛めて

左手が暴れれば今度は右手が引きずられる

「んっ……んんっ……んんんんんん!!」

苦しさと気持ちよさが高まって来たその時だった

バキンッ!

「「えっ?」」

突然の音に2人して意識を中断させられる

不意に自由になった両手で目隠しをずらしてみると

手枷が途中で千切れてただのカフスになっていた

「あー、ウマ娘用かどうか分からないからもしかしてと思ったらやっぱりか」

どうやら滅茶苦茶に暴れるファル子の力に耐え切れず壊れてしまったようだ

((どうしよう……))

気まずい沈黙が2人を包む

今日はこのまま終わりにする?

けれどせっかく準備してきたのにここで終わりにしてしまうのは物足りない

でもここから続けてもし上手くできなかったらそれはそれでモヤモヤしちゃうし……

しばらくの間グルグルと思考を巡らせたがファル子は決心した

こうなったのはファル子のせいだ、なら続けるのもそれでうまく行かないのもファル子のせいにしちゃえばいい

「ねぇトレーナーさん、ファル子に“おしおき”して欲しいな。こうなっちゃったのはファル子のせいだし、このまま終わっちゃうのも物足りないから、トレーナーさんさえよかったら……」

「分かった、ファル子がそう言うのなら……」

トレーナーさんはファル子を抱きかかえるようにして後ろに座ると手早くファル子の身体を縛っていく

両手は胸の前で、両脚は女の子座りで縛り上げて最後に目隠しを付ける

これから一体何をされちゃうんだろう……

さっきみたいに首を絞められちゃう?それとも前みたいに口を塞がれちゃう?

ドキドキしながらその時をと待っていると……

コチョコチョコチョコチョ!

「きゃっ、と、トレーナーさ、く、くすぐった、あははははははは!」

トレーナーさんの指先がファル子の脇腹を這い回った

「知ってる、ファル子?くすぐり責めって結構苦しいんだよ?ファル子には息が出来なくなるまで笑い苦しんで貰おうかな?」

笑うたびにドンドン肺の中の空気が押し出されていく

笑っているのに苦しい、けど苦しいのに気持ちいい、けど気持ちよくて笑っている訳でもない

頭の中がぐちゃぐちゃになって、だんだんフワフワしてきて、笑い声が湿り気を含んで来て……

脇腹の刺激に慣れてきたら今度は無防備な足の裏へと指先が移る

思わず身を捩ればがら空きになった首筋を吐息が撫でていく

足からくるぶし、ひざと撫でまわした指先は今度は太ももの上で踊りだす

そして忘れた事に再び脇腹を責め立てる

「あははははははは!と、トレーナーさん、し、死んじゃう!ファル子笑い死んじゃう!あはははははははははははははは!!」


「ごめん、ファル子!ちょっとやり過ぎちゃった、大丈夫?」

「だ、大丈夫、だから、ケホッケホッ、すぐ、すぐ治まるから、ケホッ」

ひとしきりトレーナーさんの指先で笑い狂ったのち、レースの後の火照りを抑える時のようにゆっくりと呼吸をして息を整える

そうしている間にもさっきまでのプレイが頭の中でリフレインしてくる

苦しさと気持ちよさと恥ずかしさがごちゃ混ぜになって、もう何もかも訳わかんなくなっちゃって、けどトレーナーさんから大切にされてる事だけは確かに伝わって来て……

ファル子はトレーナーさんが好きだ

トレーナーさんとのこのちょっぴり特殊で、だけど愛されてる時間が好きだ

「だから、また次の日もお願いしたいな、“ご主人様”♡」

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