喋る魔法のシルクハットとのんびり異世界を旅する話
一人の魔女がいた。その魔女は奇妙だった。
まず出で立ちだ。おおよそ魔女と呼ばれる存在が来ているローブ姿ではなく、バニーガールの格好、そして三角帽子ではなくシルクハットを被っている。
「さあさあ皆さまご立会、これから稀代の大魔術師による大マジックショーの開演でございます」
そして魔女は人々の耳目を自分に集め始めたのである。
ああ、おおよそ魔術というものをかじった人間であれば卒倒するような所行。
「……マジックショー?」
人々は怪訝な顔で魔女を見る。『マジックショー』なる概念はこの世界に存在しないからだ。
「あ、俺知ってるぜ。近所の村で話題になってた見世物だ!」
行商の男が我先にと観衆となる。すると、自然と人が集まり始めた。
※※※
大盛況で終えた『マジックショー』。人気がなくなったところで、魔女に声を掛ける存在がいた。
『魔女よ』
魔女が被っていたシルクハットである。
「あ、アハハ……何でしょうか? お師匠様」
魔女は喋るシルクハットを師と呼んだ。
『さて、今日は何回魔法を使いましたか?』
「さ……ニ回です?」
『おやおや、まさかとは思いますが誤魔化せたつもりでいるのですか? 最初のハトを出現させるときに一回。観衆にカードを選ばせるときに一回。そして最後の切断マジックの時も空間魔法を使いましたね?』
「い、いいじゃないですか。観衆の反応も上々でしたよ」
『ハァ……いいですか? この世界において、魔法など物珍しいものじゃない。あなたのやっていることなど、魔法使いがその場にいれば簡単に見破れるインチキでしかない』
「うっ……」
『だからこそ、私を目覚めさせた。この世界に、魔法ではない不可思議を。魔法などでは到底なしえないエンターテインメントを魅せるために。だからこそ、あなたと師弟契約を結んだ』
「……ごめんなさい」
『よろしい。では、今日のレッスンを始めるとしましょうか』
魔術師を目指す魔女。そして言葉をしゃべり、別の世界の知識に精通したシルクハット。二人の冒険は、のんびりと続いていく。