善意100愛情100
きゅうしょにあたった
おれにはおれのものがない。
そう言うとベッドの上、トランプを片付けていた向かいの兄は無言で服を指さしたがおれは否定した。
「これはアニキのお下がりというか⋯⋯たまたま残ってたのを持ち出しただけだろ」
海賊船にいた頃の物はあくまで親の物でそれを使っていたに過ぎない。降りた後も兄が稼いだり持ってきた物であって自分のなど何一つない。海賊になりたいと言う男が戦利品も持ったことがなく兄の足を引っ張ってるなんてバカみたいだ。今日だって一日宿屋のベッドの上で寝転がって窓の外を眺めてこのまま帰ってこなかった時どうしたらいいんだろうと考えて自分の事が嫌になるだけだった。
「うーん⋯⋯なるほど」
アニキは結わえた自分の長い黒髪を弄りながらうんうん唸っている。
わかっている、こんなのただのワガママだ。
海賊の息子でいた時も奴隷商品になりかけた時もそして今弟でいる時も自分は⋯⋯クロコダイルはなんの役にも立っていない。強いて言えば湯たんぽ代わりだろうかそれも暖かくなったらやっぱりいらなくなるけど。
「アニキは「でも」」
かけられた声に顔をあげる。
「クロはもう戦利品あるじゃない?」
小首を傾げて穏やかに笑う兄は嘘を吐いてるようには見えない。でも何度思い出してもなにかを手に入れた記憶はなかった。
「ねっ」
「無いだろそんなの」
「ふっふっ~」
取って置きのお菓子を戸棚から出した時の様な笑顔で胸を張ると自慢げに答える。
「私!」
「⋯⋯は?」
思わず低い声が出たのも仕方ないと思う。頭のネジ飛びすぎて中身どっかにいったのだろうか。
「冗談のつもりなら笑えないんだけど」
「本気だよ」
両手が、優しく頬を包んできてくすぐったいが言葉の続きの方が今は気になった。
「クロがあの日、『助けて』って言ってくれたから。その時から私はクロだけのお兄ちゃんでクロだけのもの。クロがあの海賊から略奪した初めての戦利品」
横長の瞳孔を持った瞳が何故か宝石みたいに輝いたように感じた。
昔、母親が商船から殺して奪ったネックレスのあの輝き。スフェーンと言っていた、太陽の光と血を浴びてキラキラと眩しくて大きな
「だから。大丈夫。クロは立派な海賊だし、これからもっと⋯⋯誰よりも強くなれる」
ふにゃ、と。気の抜ける様な笑顔におれは本当に初めて産まれて初めて。
きれい。と、思った。
どこかでナニかが爆発する音がした気がした。
「本当?」
「本当」
信じていいんだろうか。
おれは宝石が壊れないようにそろそろと手を伸ばしたけれど先に我慢できなくなったのか向こうから抱き締められた。
失くさないように腕をまわすとふんわりとお菓子の甘い匂いがして心臓の音が大きく鳴っている。
零れ落ちないように抱き締め返すと兄のクスクス笑いがしてきっとまた宝石が輝いているんだろうと思った。
「一生大事にする」
「クロは大袈裟だなあ」
おれだけの、と呟いて腕に力をこめた。
おれだけの。