唯比べ ~居合~
賭博。
これを渡世とする者、身を持ち崩す者によって、著しく世を乱す為政者の悩みの種。
徳川の世も八十年を過ぎた頃、幕府はようやく特効薬的な施策に思い至った。
公儀の主催、管理の下での賭博である。
要するに、公営ギャンブルであった。
時を同じくして。
性処理用の肉人形『唯』も相当な数に増え、広く行き渡り始めていた。
となれば、ご公儀による賭博。
その種目は必然として、唯を用いたものとった。
こうして『唯比べ』は始まったのである。
それからすぐに、日本中に数えきれない程作られた『唯戯場』。
ここは、江戸にある小規模な唯戯場のひとつである。
広い空地を、幕で囲っただけのものだ。
真昼間である。初夏の爽やかな陽射しが降り注いでいた。
入口から奥に向かって、七割ほどは観客席である。
小規模とはいえ、大人気の唯比べの会場だ。
満員を越え、無理やり立ち見している者も含めて、三百人はいるだろう。
彼らが目をぎらつかせ、手に手に札を握り締めて見つめる先には、茣蓙が敷いてあった。
観客席に向かって、何枚も繋げられ、縦長に五本の茣蓙の筋が出来ている。
その上には、男たちが仰向けになっていた。
一本の筋に、五人ずつ。
頭を客席の方に向けて、全裸の男たちが寝そべっている。
そして、一本の筋に一人――もとい、一体ずつ、『唯』がいた。
この組の競争は、先ほど始まったばかりである。
彼女らは皆、客から見て一番遠くに寝そべった男に、それぞれ跨っていた。
もちろん、男の腰に跨り、彼らの屹立した肉棒を、自身の道具で咥えているのだ。
五体の唯たちには、かなりの差異があり、個性があった。
豊満なもの、痩身のもの。
大人びたもの、あどけないもの。
肌も、白いものだけでなく、日焼けさせられているもの、地で浅黒いもの。
「っ……っ……!」
羞恥心を捨てきれないのか、そういう趣向で仕込まれたのか。
声を懸命に押し殺し、乱れた様を見せまいとしているもの。
「おっ、おぉぉっ! あっ、あんっ、いい、いいですぅ……!!」
逆に、恐慌を来した獣のように吠えまくり、跳ねまくっているもの。
髪の色が白ではなく、黒のものと赤いものもいた。
黒の方はともかく、赤の方も、染めているようには見えない。
ほんの数年前に出てきた新種である。
彼女がこの組の一番人気であった。
また、顔より下は無毛であった唯だが、そうではないものも出来て久しい。
陰毛を生やしたものが三体。そのうち、さらに腋毛も生やしたものが二体いる。
三体のうち、二体の毛は白であったが、残る一体はその赤毛の唯であった。
彼女はまた腋毛を生やした二体のうちの一体でもある。
毛量も多く、生えている範囲も広く、一本一本がまた太いのだろう。
頭頂部で高く括った髪も。
後頭部で両手を組み、そのため見せつけるように晒した腋窩の毛も。
地面をしっかり踏みしめるため、ぱっくりと膝を立てて開いた股の叢も。
太陽にも負けじと燃える炎のようであった。
「おっ、だ、だめだぁ……」
情けない声を上げて、最初に精を搾り取られたのは、右端の筋。
黒髪の唯に跨られていた若い男であった。
「ああっ、お情け、お情け頂戴いたしましたっ……!
お情け、ありがとうございました……! ん……ちゅっ」
感謝の言葉を述べると、前に倒れ込み、男に接吻する。
さも愛しげであるが、躾けられ、定められた作法である。
そうとわかっていても、男は溢れんばかりの幸福感を味わった。
しかし黒髪の唯は、だらしない顔をした男から立ち上がると、次の男へ。
ひとつ客席に近いところに寝そべる男のところへ歩いていく。
その腰を跨ぎ、腰を降ろして、咥え込む。
一体が抜きんでたことで、観客たちの興奮が増す。
野次や罵声や応援の声が、地鳴りのように沸き始めた。
その熱に押されるようにして、男たちは一人、また一人と射精する。
唯たちは、男の精を搾り取ると、やはり次の男へと跨っていた。
もうお察しのことだろう。
五人の男と、順に茶臼――騎乗位でまぐわっていき、最初に全員を吐精させる唯は、どれか。
それを当てるというものだ。
「早く抜く」ことを競うことから「居合」と名付けらえた、一般的で人気も高い唯比べの一種である。
胴元、すなわち幕府にとって都合がいいのは、
当たりの報酬として、金だけではなく、「竿役」の権利を設定できることであった。
まだまだ庶民には高嶺の花、もとい高価な御馳走である唯を味わいたい。
金よりもそちらを求める男は多く、利益は正に濡れ手に粟。
幕府の蔵は、唯の肉壺によって栄えに栄えるのであった。