呪われた街

呪われた街


ギルバートが死んだ。

白い灯りの傍には、弱弱しい獣の死体。

オドン教会と聖堂街を駆け回った後、夢を伝い彼の住処に近い場所で目覚めたおれを迎えたのは、一匹のか弱い獣だった。

せめて人として死ねることを幸いに思うと言ったギルバートが、この街に来る前から重病を患っていた彼が、獣になって死んだ。

おれが殺した。

おれには彼を治してやるだけの手立てはなかった。それこそ、ローの珀鉛病を治してやれないのと同じように。

せいぜい、寄るたびに話し相手になるくらいが関の山だった。この長い長い夜にどんどんと弱っていく男に、何も、何もしてやれなかった。

ああ、ローが狩人の夢に居られてよかった。初めて会った時にギルバートは、この街は呪われているのだと表現していたが、きっとそれは言葉通りに正しい。

あの赤い月が上ってからというもの、狩人の夢の空すら煮え立ち歪んでいる。それでも絶え間なく赤子の泣き声に苛まれるこの街よりは、ずっとずっと安全で、優しげな場所だった。

市街や聖堂街を駆け回って集めてきた避難者は、"青ざめた血の空"の下で半数ほどが正気を失っていた。噎せ返るほどに獣除けの香が焚かれたあの場所で、まだ獣化者が出ていないことだけが救いだ。

湖の底の蜘蛛を倒す前には獣の気配が絶えていた街は今、香の焚かれた建物の中からですらひっきりなしにつんざく悲鳴が響いている。

そんな中でおれは、獣に占拠された娼館から引きずって来た、ローよりも幼い少女の手に銃とノコギリ鉈を握らせ、万が一の時には使えなんて言葉を吐いていた。幼い彼女に、おれ達と同じ"穢れた"血と狩りの才があるというそれだけの理由で。かつてのローのような暗い目が少しずつ変わっていくのを喜ぶ権利は、おれにだけはない。

それでも狩人の夢に戻ったら、また優しげなだけの恐ろしい嘘を積み重ねるのだ。遠い夜明けを待つ、ローのためだと嘯いて。

聖堂街の片隅で、あの旧い王冠を祀ったアルフレートが死んでいた。

鴉羽の狩人狩りは、おれの二番目の師は血に酔った血族に襲われ、おれに彼女の狩りの証を託して死んだ。

ガスコインもその家族も静かな古狩人だったというヘンリックも、アリアンナもあのイカレた医療者もみんないなくなった。

この街は呪われている。今はおれも、その呪いの一部だ。

でもだからこそ、悪夢のように死を繰り返すおれだからこそ、このおぞましい夜を終わらせることができるのだろう。

冷たくなった獣の血に塗れたまま、アイリーンから教わった獣除けのタバコの煙を吐き出した。

赤子の声が責めるように、まだ頭の中に響いていた。






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