告解

告解


・ネタ元:ハッサクさんが二重人格だったらスレ

・二重人格をコルサに打ち明けるハッサクの話

・関わってからそこそこ経ってはいるがまだお互い今の呼び方はしていない








「…………二重人格、なんです」


 懺悔するように呟いた。

 二重人格、とコルサが意味を飲み込むように口にするのを黙って聞く。今まで彼に対して秘密にしていたことだった。


 これからも秘密にしていくつもりだった。ただ些細な出来事から二重人格たるところを見られてしまい──それでも彼はそこから深く言及しようとすることは避けてくれていたのだが、自らの方が隠し続けることに限界を感じて伝えることにしたのだ。

 もう一人の自分には強く反対され続けたが、「これ以上この人に隠し事をしたくない」と伝えると呻くような声と共に反論が聞こえなくなったのを思い出す。


「……出会った時からそうだった、ということでいいのか?」

「そう、……ですよ。会う前から、ずっとそうです」


 コルサは口元に手を当てて考え込む。生きてきた中で一番長く感じられる沈黙の時間だった。

 信じられないに決まっている。何を言っているのかと理解されない顔をするに決まっている。気が狂ったのかと思われる。仮に、信じたとして。二重人格者など、気味悪がられるに決まっている。異質なものを見る目でまた見られるのだ。


『だから言うべきではないと言ったでしょうに』


 声が聞こえる。うるさい。彼に隠し事をしたくないと思ったのはお前もだろう。

 自分と自分がお互いに嫌悪を向ける。そんな何度体験しても気味が悪いものが始まろうとして、


「よければ教えて欲しいのだが」


 スケッチブックを取り出したコルサの声でそれはあっけなく終わった。


「え?」『は?』


 二つの間の抜けた自分の声が聞こえた。


「二重人格とのことだが、二人とも『ハッサクさん』という認識でいいのだろうか。もし二人にワタシの知らないそれぞれの名前があるのなら教えて欲しい。あと思い出せる範囲でいいのだが、ワタシと共に過ごしている中でこの時会ったのはどちらだったかなど、教えてもらえると助かるのだが」


 コルサはスケッチブックの真ん中に線を引き、二つの面を作りながら質問を並び立てていく。自分達二人のことを、書き記していくつもりらしい。


「あと……そうだな、すまないがワタシには現状二人の区別がつけるのが難しいから、特徴……?と言ったらいいのか?それぞれの個を教えて……ハッサクさん?」

「信じるん、ですか」


 質問の返答を放り投げて投げかけられた問いにコルサは目を瞬かせる。こちらを見るその目に、気味の悪いものや異質なものを見る気配は一切なかった。


「二重人格なんてものを、信じるんですか」

「ハッサクさんはそんな顔で嘘をつくのか?……というのはまあ、今は置いておくが。これはこの前の事のハッサクさんなりの説明なのだろう?ならば納得のいく節はあるし……そもそも二重人格という言葉が世界に存在しているのだ。驚きはするが実在していても何も不思議なものではないのだろう」

「それは……その。そう、と言えますが。……気味が悪くは、ないのですか」

「ないな。ワタシはそのようには思わない。今までこのように共に話してきたのに今更気味が悪くなどなるものか。アナタたちはアナタたちだ」


 バッサリと言われて今度こそ言葉が出なくなった。もう一人の自分もすっかり何の言葉も発さなくなっていた。コルサのみが変わらず言葉を紡いでいく。


「それよりワタシこそ謝らなければ。すまなかった」

「…………何、を?」

「知らなかったとはいえワタシは今まで一人としてアナタたちと接してきただろう。複雑な気持ちでいたはずだ、良い気分であるわけがない」

「……………」

「悪かった。これからは二人として接するから、そのためにも先ほどの質問に………」


 受け入れられた。こんなにも簡単に。

 認められた。二人であることを。

 その上でこの先も、二人として尊重しようと───


「…………う、」

「あの、ハッサクさん?」

「ううううう、ゴルサざん〜〜〜ッッ!!」

「え、あ、ハッサクさん!?ま、待ってくれえっと、」


 抑えきれず声を上げておんおん泣き出した自分を必死に宥めようとするコルサの声が聞こえる。膨れ上がる大きな声にコルサのミニーブがびっくりしてころころと転がり、話している間心配そうに見ていたハッサクのフカマルが目を丸くした。それでも涙は止まりそうにない。

 普段泣き出すと泣くんじゃないとすぐ言ってくるもう一人の自分も今は何も言ってはこなかった。きっと言われた言葉を自らの中で噛み締めるのに必死なのだろう。表面に出ているのがあちらだったならば、一言も発せずただ顔を覆っていたのではないかと思う。


 そのままに受け入れ、当たり前のように尊重する。初めてだったから、そんなことをされたのは初めてだったから。どうしようもない感情を抑えることができなかった。



 わんわん泣き続けるハッサクとどうしようもできず宥めようと狼狽えるコルサの攻防は続き、落ち着くまでにはまだしばらくの時間がかかったという。


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