君の顔

君の顔


「オウさん、私の顔、昔の私のに戻した方がいいかな?」

慰問を行うミーアの護衛とバックミュージックを務めることを了承し、準備を始めて暫くしたある日、鏡に向き合ったままミーア・キャンベルが言った。

既に髪は染めるのを止め、ストレートパーマもかけていないため元の柔らかな髪質と色に戻りつつある中での発言だった。

俺としては、どちらでも彼女だから大して変わらないのだが、これまで替え玉のラクス・クラインを演じて来た彼女からすると、かなり重い問題のはずだ。

何より、費用と時間の二つ、そしてそれ以上に技術が重い問題として立ち塞がる。

ミーアが受けた整形手術は、当時のプラント最高評議会議長だったギルバート・デュランダルの下で行われた最高の技術によるものだから、当然元の顔にするには同じレベルの手術を受ける必要があるわけで。

そんな手術を今やただの一般人同然のミーアが受けようとあれば、それはもう気の遠くなる様な手間と金が飛ぶに違いない。

ミーア自身、既に諦めているのだろうが、「ラクス・クラインの替え玉」ではなく、「ただのミーア・キャンベル」として再スタートしたいと考える彼女にとって、それは一種のケジメと言える訳で・・・うーむ。

「わたくしは別に再整形なさらずとも構いませんわ」

「らっ、ラクス様!?」

「入ってくるときは一声かけてくれませんかね?」

はい、件の元歌姫様いらっしゃいませ。

来ているのは読め(わかっ)てたけども。

「ごめんね、ラクスがどうしてもって」

「激務だろうにわざわざか、正直ありがたかったけどさ」

実際助かった、俺の言葉じゃ多分本質的にミーアの悩みを解消するには至らんし。

「で、でも、私、この顔では」

「わたくしの顔は、おきらいですか?」

「そんなことは絶対にありえませんっ!!!」

うお、すげぇ声量、顔以外全部自力で磨き上げた歌姫は流石だ、でも急にはちょっとやめてくれ、俺はともかくキラが目回しかけてる。

「では、よいのではないですか? それとも、他に理由がございますか?」

「・・・私は、デュランダル元議長と共に、貴女の名前と顔をいいように利用しました、貴女の歌姫として在り方を、イメージを侵害し、それだけで飽き足らず、勝手に私が【ラクス・クライン】そのものになろうとしてしまったんです。 どんな理由があっても、どんなに真似をしても他人がラクス様になれるはずがないのに!! ラクス様はこの世に一人しかいないのに!! だから…あっ」

「ありがとうございます、ミーア。 そこまでわたくしの事を想い、慮り、そしてわたくし自身を見ようとしてくれて、それだけで十分です、わたくしは貴女を赦します。 わたくしを演じて下さったのが貴女で本当に良かった・・・これは、わたくしの偽らざる本心ですわ」

「う、うぅ、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!! ごめんなさい! ごめん、なさい…!!」

イイハナシダナー。

流石のカリスマ、ミーアの抱えていた罪悪感やトラウマを見事に拭ってくれて助かったわ、俺だったらこうはいかん。

ほれキラ、そろそろお前も戻ってこーい。


―――5分後


「た、大変お見苦しいものを・・・」

「いいえ、お気遣いなく。 とても可愛らしかったですよ?」

「ぁう・・・ちょ、ちょっとオウさん、生暖かい目で見ないでよ!? あっ、なにその『やれやれしょうがない子』みたいな視線!」

「やれやれしょうがない子だなぁ」

「なんでキラさんが言うの!? キラさんってそんな人でしたっけ!?」

「ふふふ・・・」

「ラクス様も笑わないでください!」

わー賑やか。

ヘリオポリスの頃のキラを知らん人だと驚くかもだが、割とキラってこういう奴なんだけどな。

それはそうと。

「で、結局ミーア、顔は戻すか?」

「ううん、戻さないことにするわ。 ラクス様からお許し出たし、今から戻すとなると活動開始に遅れが出過ぎるし」

「ご武運を。 貴女の活動、わたくしの方でも全面的に支援させていただきます」

「ありがとうございます、ラクスさ「ラクスでよいですわ」・・・えっ?」

「ふふっ、わたくしは貴女と対等な友人でいたいと思っています。 なので、敬称は不要です。 さ、どうぞミーア。 どうか【ラクス】と」

「あ、あわあわわわわ」

「あ、そうです。 こんなに顔がそっくりですし、これはもう姉妹でも良いのではありませんか?」

「ヒュッ」

・・・揶揄いじゃなくてこれガチ名案のつもりで言ってやがるな。

キラ相手の時もそうだったが、ラクスって好きになった相手にはガツガツ距離詰めるっぽいし。

・・・そういう点ではアスランと似てるんだよなぁ。

「オウ、今少し不愉快な思考をしませんでしたか?」

「友達のこと考えてただけだよ」

「嘘ではなさそうですね。 さ、ミーア」

「か、勘弁してくださいぃぃぃぃぃ…少なくとも今はまだ」

「むぅ、残念ですが仕方ありませんね・・・では、また今度会った時に」

「は、はい、頑張ります」

目がグルグルしちゃってまぁ。

そりゃ元々崇拝すらしてた様な相手から直であんな事言われたら脳が煮えるか。

「じゃあね、オウ。 また」

「あぁまたな」

さぁて、俺もこっから再スタートだ、今度こそ護るさ。


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