向こう側
注意
・ハイパーデカ感情はあるが恋愛感情はない
・3兄さん視点
・モブが出る
・クロコダイルもちょっとだけ
・GWちゃんは出てない
・2年後謎時空
・GWちゃんを手放すことと芸術を軽視する言動が地雷の3兄さん
・その他もろもろ
注意を読んだうえで大丈夫でしたらどうぞよしなに。
───月も細目の夜半、交渉のテーブルに着く。
恰幅の良い男はさぞ美味い飯を毎夜屍喰鬼〈グール〉のように貪り喰らっているのだろう。
テーブルに積まれた財宝とカネは私からすればあと一声欲しいものだが、これで何を、誰を買おうというのか。
「...それで、そちら側の欲しいものとは?」
葉巻を吹かし下卑た笑みを浮かべる男。
「絵描きが欲しい。飛び切り絵の上手い。」
「...絵描き、ですか。」
もう一度ゆっくりと紫煙を吐いた男は───私の予想していた中で最も最悪な一言をぶち撒けてくれた。
「それを前金にしてあの画家のガキをくれ。写実画家のミス・ゴールデンウィークと言ったか?彼奴に贋作を作らせればよく売れるだろう。そうすりゃもっとカネを増やして払える。」
体内の血が凍るような錯覚に陥る。
彼女に贋作を描かせる?
そんな馬鹿なこと、させられるものか。
「......」
「絵なんてのはそんなもんだろう?誰もそれが本物かなんてそう見抜けやしない。素人の描いた絵だってご高名の画家とやらの名前を上貼りしてやればあっという間に名画扱いだ。」
今度は頭に血が昇っていく。
───黙って聞いていれば、我らの命である芸術作品を軽視し愚弄するなどと。
「(...どうしても、許せそうにない)」
契約など知ったことか。
どうせこれだけのカネしか出せないような契約先などボスに報告すればすぐに切れるだろう。
まあ先にこの男をどうにかした罰として枯らされたくはないのだが、それ以上に。
───私は地雷を一つならまだしも二つも踏み抜かれて最後までヘラヘラしていられるほど気の長い男ではない。
「彼女は確かに、腕の良い画家です。しかし、あなたが卸し切れるとは到底思えませんね。」「なんだと?」
「それに...」
眉を顰め、思い切り渋面を作る。
「あなたには今ここで作品になっていただかねばならないので。」
...作品にする価値も無いが致し方ない。
「作品だと...!?」
そばに置いてあったナイフを男が手に取るが、そんなもので能力者を止めようなどと...無謀だ。
一瞬で蝋を出し、ナイフを持った手を固める。
悲鳴が上がった。
だがそれを聞く者などいるはずがない。
「た、助けてくれ...!命だけは...!」
「無様ですね、命乞いなどと。」
ぎゃあぎゃあと煩い彼の口元まで蝋を近づける。
「そ、そうだ、契約は!?おれを殺してみろ、サーに殺されるぞ!」
「残念ながら彼はもうあなたを切るつもりでした。恨むならあなた自身の発言を恨むことですね。」
はっきり言ってこれ以上この男を生かすのは不快だ。
一息に男の口から蝋を詰め込む。
そしてそれをコーティングしてしまえば、作品の出来上がりだ。
「ああ...0点だな。ありきたり過ぎるし、位置も悪い。」
蝋を解除し、ナイフを取り出す。
後に残るのは息の根の止まった抜け殻だけだ。
「さて、どうしようか。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ボス、報告を。」
電伝虫に全て告げればボスに擬態したそれからは重い声が響く。
『テメェ...いや、良い。おれに報告する前に潰したのは褒められたことじゃねェが、胡麻擦ったりこそこそ嗅ぎ回って鬱陶しかったんだ。死んでくれてせいせいした。』
「そうですか。」
『...何だかご機嫌斜めじゃねェか、Mr.3?』
私に擬態した電伝虫の表情を見て察したのか、向こうはご機嫌な様子で問い掛けてくる。
「強いて言うなら...今はただ、早く次の作品を作りたいだけですガネ。」
『ほう...まあ良い。次は生かしておけよ。テメェにはまだ価値があるんだ、みすみす手放したくはねェ。』
「...失礼します」
通話を切って溜め息を一つ。
「許せる筈などない。」
───芸術はなんであれ大切にされるべきものだ。
滅ぼされた文化文明における重要な資料であり、誰かの心を揺さぶるものであり、そして今を生きる人々の寄る辺になるもの。
それを愚弄するなどあってはならない。
身支度を整えて船に乗る。
何も知らないミス・ゴールデンウィークはいつもの通りに拠点で絵を描いているだろう。
彼女の絵は綺麗だ。
繊細で、丁寧で。
唯一無二のそれを潰すことを誰が肯定出来るだろう。
誰が肯定して良いのだろう。
そんなこと、あって良いはずがない。
「...私がたった一人に執着するなど、随分なものだな。」
口元が歪む。
月は瞼を降ろしたように沈み、夜が明け始めていた。