名探偵冴ちゃん

名探偵冴ちゃん

182氏より


 出勤したばかりの警官の男はある一本の通報を受け、同僚とともに現場に向かっていた。現場は廃工場で通報者は匿名、しかもボイスチェンジャーを使っていたという。怪しいにも程がある。

 最近鎌倉のこの地域に異動してからまぁいろいろと事件が絶えない。前任が数ヶ月でこの仕事を辞めていった理由がなんとなく分かったような気がした。

 廃工場の傍で男はパトカーを停めた。同僚と捜索場所を分けて廃工場の傍、備品などが置かれていたであろう倉庫に向かった。暫く自分の足音が響く倉庫の中を歩き、朝だと言うのに薄暗い倉庫の奥の方で、ウェディングドレスを着せられて目隠しや猿轡をつけられ手足も拘束された少年を見つけた。拘束を解こうと焦っているようだった。

「大丈夫ですか」

 そう男が声をかけると少年は肩をピクッと震わせた。目の不自由な状況で声をかけられたら誰だってそうなるだろう。男は同情し、目隠しや猿轡を取り去ってやる。足を縛っている拘束に手をかけると少年はやっと少しばかり安堵したような表情を見せた。手の拘束も取ってやったがこの衣服はどうにもならない。男は同僚に連絡し、到着を待つことにした。

 9歳という齢でこのような思いをするとはさぞ辛いことだろう。男は少年に声をかける。

「怖かったね」「辛いことがあればお兄さんに言ってね」「弟さんも冴くんが見つかって安心してると思うよ」

 同僚が駆けて傍まで来た時、初めて冴くんは口を開いた。

「お巡りさん、この人が犯人です」

 男は自身に向けられたその人差し指をとてつもなく愛しく感じた。


「どうして彼が犯人だと思ったの」

 男の同僚もとい冴と顔見知りの婦警・百武は男が他のパトカーで運ばれたのを見送ると冴にそう問いかけた。

「まずウェディングドレスの質が悪ぃから多分安月給の職に就いてる。」

「で、足音が同じだった。あと俺の名前を知ってた。」

「でも何度か誘拐されたときに居たからそれで名前を知ったのかと思った。何より決め手は弟の存在を知ってたこと。」

「動機はどうせ俺のコトを救って好かれたいとかだろ、数ヶ月前と一緒じゃねぇか。ぬりぃ」

 なんだかツッコミどころがいっぱいあった気がしたことはさておき、百武はそんな冴に事情聴取を済ませて家に返し、いまからの長い長い業務のことを思いため息をついた。

「そろそろ人員不足が解消されないかしら」

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