同調変形式槍型音響装置【ヒポグリフ】
「フランキー?きたよ」
髪を一つにまとめ、ラフな格好でヒョコッとサニー号内の工房に顔を覗かせるウタ。人間に戻ったばかりの頃は人形にされた当時の服や靴、最早役割の果たせない髪留めとヘッドホンをして、子供の身体からいきなり大人になった為の栄養失調等が見られたが…最近ではナミやロビンと一緒に選んだ服や靴をしておめかしする女の子らしさを取り戻しつつあるし、優秀な医師がいた事で栄養管理も出来て女性らしい柔らかさを取り戻してきた。
そう、女性。それも10年以上という長い年月玩具にされ、本来人が人としての常識や情緒を育てる為の時間を歪まされた精神がまだ大人になりきれていない少女と言ってもいいのが彼女…ウタである。
「アゥ!よく来たな!」
そしてそんな彼女に、知らなかったとはいえ人形の身体だった当時に【雑な扱い】と言っていいやらかしに思い当たる節がある物達はそれはもう慌てた。
勿論仲間として扱ってたつもりだが初見やら仲間として馴染んだからこその雑さがあった事は否めず、そしてそれがもし人間だったら…?と思い返した時に一味の者達は頭を抱えた。
そして、その【やらかした分挽回し隊】筆頭が今、目の前でウタに手を振っているフランキーであった。
「最近の調子はどうだ?おれのスーパーな改造で手摺やらなんやら色々付けたけど不便はしてねぇか?」
「だいじょうぶ、ありがとう」
戻った当初は自身に今まで地獄を強いてくれたドフラミンゴ達や仲間の為…という精神的な理由と、チョッパー達曰く「本来、普通に生きていたら無問題な量の脳内麻薬などが久しぶりに人間の身体になった為に過剰に反応しがち」らしく側から見れば戦闘狂の様にテンションが上がっていたのもあって中々な大立ち回りをしてくれたが本来ならば慣れない人の身の動かし方に精一杯なところもある。
やらかしは消えない。だからこそフランキーはここぞとばかりにサニー号でウタが不自由しない様手摺やスロープなんかを速攻で作ってみせたのだ。
そして、これもその一つであった。
「今回はおれとウソップの共同で作ったスーパーなプレゼントがあるぜ」
「プレゼント…?」
「おうよ!」
そうしてフランキーが取り出した二つは歌が好きなウタからすると、とても馴染み深いものだった。
「!…ヘッドホン…!と、スタンドマイク?」
「ただのヘッドホンじゃねぇ。おれとウソップの共同開発。そこらのヘッドホンなんて目じゃない程の機能が搭載されてるぜ」
そうしてフランキーはまずヘッドホンの説明をする。通信機器として使えたり、スイッチを押す事で出るマイクは指方向性に声を飛ばせる為に味方の巻き添えを減らせるといった優れものだった。
「元々使ってたのが壊れちまってたし、サイズも合わなくなってただろ?」
その通りで、勿論彼女はそれを今でも宝物として残しているが…彼女のトレードマークのあの髪型はヘッドホンで支えてる部分もあったので最近はずっと下ろすか一つにまとめていた。諦めてバレッタか何か買おうかとも思ったが…何もない耳元を風が撫でるのは触覚を取り戻した今、落ち着かなくて困っていたのだ。
だからこれだけでも充分に嬉しいプレゼントだ。きっと元の髪型だったらきっとピョコピョコ跳ねていたに違いない。
「んで、こっちのスタンドマイクだな。まだ声が出し難いだろうからスピーカー並に響かせるなら、これ使えば負担は少ないだろうさ…これも現実世界で戦うのに使ってくれ」
「…かるい」
「軽いがめちゃくちゃ丈夫だぜ!俺の身体の改造やサニー号の装甲にも使う金属使ってっからな!」
なるほどそれならば問題ないだろう。と仲間とサニー号への信頼の高さからウタは頷く…ふと、マイクの近くにあるスイッチの様な物を見つけ、なんの疑いもなく押す。
すると
ガチャガチャガキンッ
「!?!?」
「お、気付いたか。まぁウタの能力は強力だけどよ、現実の世界でも戦える手段が有ればって思ってよ」
マイクから変形したそれは一本の槍だった。変形しただけなので重さは変わらないが、刃先は間違いなく武器としてのソレを誇示していた。
斬れ味も恐らく問題ないのだろう。
ヘッドホンとは違う金属感のある金色の持ち手の槍は、元がスタンドマイクでもあるからか受け取ったばかりというのに既に手に馴染みつつある。
「それはヘッドホンと連携してるからよ!ウタ以外の奴にはただのマイクのままだしコイツの名前をウタが呼べば離れてたって飛んでくるっつー、スゥゥゥパァァァア!!な機能が付いてるぜ!」
「名前…?」
「何か候補はあるか?そしたらそれに設定しとくさ」
それはゾロの使う刀や、ナミが使う天気棒の様な物だろう…何がいいか、とウタは思案する。戦う為の、道具。
頭の中に、自分が憧れる海賊が思い浮かんだ。そして、彼がいつも腰に佩いていた愛刀の事も。
「…リフ」
「ん?」
「ヒポグリフ…ヒポグリフにする…!」
「…アウ!いい名前じゃねえか!」
ニッと笑ったフランキーはその場でウタの声と【ヒポグリフ】の名前を登録した。
改めて手にする、新しいヘッドホンと、自分の専用武器であるスタンドマイク兼槍であるヒポグリフ。
とにかく嬉しい。自分が戦う為の手段をこうしてキチンと手に握る事が出来る。
「フランキー!」
「ん?」
「ありがとう!!」
「…へへ、まぁウソップも協力してるからよ!アイツにも礼を言っときな?」
コクコクと頷きウタは2つを抱えて早足で歩む。恐らくこのままその足でウソップにも礼を言うのだろう。
これで少しでも、挽回出来てりゃ良いなとまた作業に戻ろうとするフランキーの背からまたウタの声がする。
「フランキー!」
「あ?」
「大事にする!」
そうして今度こそ走り去って行った。残されたフランキーは何処か照れ臭そうに一人頬を掻く。
まるで新品の玩具でも貰った子供の様だった。前まで玩具そのものだった彼女に対してそれはあまりな皮肉だなとすぐ撤回しつつも、フランキーは先程以上に上機嫌で作業を再開した。