同盟再誕。

同盟再誕。


「海賊女帝」と「死の外科医」。かつて、共に海に君臨した王家七武海である。片やアマゾンリリーの女傑にして絶世の美女。片やロッキーポート事件の謀略家にしてワの国決戦にて四皇を降した海の風雲児。両者ともその名を聞くと泣く子も黙る程の実力者である。ただ、この2人には何の面識もなかった。それもそのはず、顔を合わせたのはかつてマリンフォードを舞台とした「頂上戦争」と、その後の七武海会議くらいのものである。お互いに名前と顔を把握している程度のものであった。

その2人が、遂に会合する時が来た。時はワの国決戦後、カイドウ亡き後の平穏に包まれた港付近がその場所だった。

打倒カイドウの目的の下に集った仲間達が各々の道を進むと誓い、揃って荷造りや出航の準備を行いあくせくとする昼間、ボア・ハンコックは単身「ハートの海賊団」がたむろする中にいた。賑やかな声と騒音の中にあるその姿は、まるで雑草に生えた一輪の華であった。彼女が座り、静かに佇み、それでいて凜とする姿は、周囲を幻惑させるほどに魅了なものだった。


ロー「待たせたな」


その場に入ったのはトラファルガー・ロー。彼がハンコックの向かいにどかりと座る。ようやく、ハンコックが口を開いた。


ハンコック「急な来訪となり、非礼を詫びよう」

ロー「それは気にするな。それで、本題だが、」


―さて、この度彼女が来たのは、とある用件についてローが話しておきたいことがある、と連絡したことが始まりである。そこで「九蛇海賊団」は急遽予定を合わせようと、大切な話だから、と神速をもってワの国までやってきたわけである。


ロー「麦わら屋との同盟を結ぶ前に、言っておきたいことがある」


ハンコックはあの日、「麦わらの一味」がシャボンディ諸島から再出発する日、彼等を送る側としていた。2年もの間、自身が支え、そして自身を支えてくれた男の晴れの日。当然喜ばしいことである。あるのだが。


ハンコック(回想)『はぁ・・・ルフィ。無事でいようか・・・』


寂しさと不安が少しずつ彼女の心を染めていった。あの後、一行は無事に進んでいるのか。どこかで難破などはしていないだろうか。敵船からの理不尽な暴力に襲われてはいないのか。突如失踪してしまう船ですら多い時代、このような心配も当然のことだった。何度女帝の位を捨て、単身救援に行こうと思ったことか、それは彼女とその限られた側近にしかわからない。

そんな中、パンクハザードにて締結されたローとルフィの同盟。その速報は世界を巡り、世界を、当然彼女も、驚愕させた。最初は自らがその立ち位置にいたかったからこそ嫉妬したが、よく考えてみればその海賊団はかつて最愛の男を救っている。信頼jに値するのである。おぞましい男の1人だが。

そして、自らもそれに倣おうとしたわけである。七武海制度が撤廃された今、その夢を妨げるものは何もなかった。一応、同僚繋がりでローに連絡を取り、そこから一味と接触を試みた。そして今に至る。

ロー「まず、お前が思う同盟と、麦わら屋の思う同盟。この2つは全く違う」

ハンコック「そうであるか」

ロー「一度奴と手を結べば、多大なる苦労がのしかかるぞ」

ハンコック「大丈夫じゃ、妾はそのことも承知じゃ」

ロー「・・・時に想定外の災難を持ち込んでくる、そこが厄介だ」

ハンコック「それも分かっておる。妾はかつてルフィと共にバーンディ・ワールドの襲来を防いだこともあるのだ、憂慮せずとも良い」

ロー「勝手に船に入られることもある」

ハンコック「構わぬ、その時に備えルフィが好むような空間を船内に設けておいた」

ロー「・・・それだけなら良い、酷いのは勝手に船内を彷徨かれたり勝手に知らん人間を仲間になったから、と乗せてきたり・・・こちらにはお構いなしだ。俺が何度ゾロ屋に船内を案内しなければならなかったことか」

ハンコック「その方らも、ルフィの大切な仲間ぞ。丁重に扱う」

ロー「それにだ、ニコ屋はベポを独占するわ、ナミ屋はことある毎に厚かましく要求するわ、黒足屋も一々うるさいし、フランキー屋なんて勝手に改造してくる。まともなのはトニー屋くらいだった」

ハンコック「そ、そうか」

ロー「それにだ。知らない内に勝手にウチで飯を食って帰ったり、勝手に行事ごとに巻き込んできたりもする。この前なんて最悪だ、勝手にピクニックにいこうと言い出して引きずりにきたし、何ならそこでパンを食わされそうになった。・・・思えばあの時が麦わら屋との初めての一戦だったな」

ハンコック「・・・」

ロー「それにだ、勝手に仲間扱いしてきやがる。俺には20人の大切な船員がいるのに、さもいつのまに傘下に入れたかのような口ぶりだ。何度訂正しても変えようとしねぇ。他にもあるぞ。夜中にいきなり電伝虫にかけてくるわ、勝手に向こうのいざこざに巻き込まれるわ、まぁ俺も本来の目的を伝えようとしなかったのもあるとは言え、流石にここまで酷いものとは思わなかった」

ルフィ「でもよ、何だかんだ言って必ず助けてくれるんだ!」

ペンギン「それにこう言ってはいますが何だかんだでキャプテンも友達できてから満更でも無さそうですし」

シャチ「結構悪いもんでもないですよ、麦わらとの同盟。俺達も助けられましたから」

ロー「出て行け、お前等今すぐ出て行け。麦わら屋はそもそもここに来るんじゃ」

ハンコック「ルフィ~♡」

ルフィ「ハンコック!久しぶりだな~!」


勝手にじゃれ合う2人を見て、ローはまた気が遠くなりそうだった。

そうか、女帝屋も「そっち側」の気質があったか。そりゃ何の躊躇も無いわけだ・・・


ルフィ「それで、どうしてここに来たんだ?」

ハンコック「そ、そうじゃな。あ、あの・・・ルフィ・・・妾と・・・」

ルフィ「?」

ハンコック「妾と・・・結婚を・・・♡」

ロー「違うだろ!同盟の話何処行った!」

ハンコック「む、そうじゃった。同盟じゃ!」

ルフィ「お、ハンコックも友達になってくれんのか!あ、でも元から友達みたいなもんだし・・・」

ハンコック「となると・・・」

2人『仲間!』

ロー「勝手にやってろ」


勝手にじゃれ合うものなので、ローは遂に諦めてしまった。ある程度ほっとくのも必要なスキルなのは、今までで十分理解できている。


ルフィ「それじゃ、これからよろしくな!ハンコック」

ハンコック「あぁ・・・流石妾のルフィ・・・いつ見ても美しい・・・」

ロー(話噛み合ってねぇ)

ルフィ「そういや、何でトラ男といたんだ?」

ハンコック「それはじゃな、お主の友として」

ロー「友達じゃねぇ。女帝屋がお前と同盟を結びたいから、前任者の俺に相談に来ただけだ」

ルフィ「へー、そうだったのか。あ、でもそうか・・・トラ男とはここでお別れか」

ロー「元からその条件だっただろ」

ルフィ「そりゃそうだけどさ・・・でもやっぱ少し寂しいんだよな~」

ロー「何が言いたい。俺はもうお前等に振り回されたくは無いんだが」

ハンコック「それならば、そこに妾が加わることにして、三海賊団の同盟にするのはどうじゃ?妾としてもお主を助けてくれた礼をしたい。将来の妻として・・・♡」

ルフィ「お、それ良いな!そうしよう!おれは結婚しねぇけど!」


・・・は?


ローは急に置いて行かれたことでやや不機嫌になっていたが、突然の展開に襲われ思考が一時止まった。一瞬の沈黙。そして後から来る衝撃。


ロー「お、おい待て。俺は承諾しないからn」

ルフィ「よーし、そうしよう!じゃ、おれ皆に伝えてくるからな!じゃ、また後でな!トラ男、ハンコック」

ロー「待てって言ってんだろうが耳ついてんのか」

ハンコック「そうじゃな、妾も一度船に戻ることにしよう。これから世話になるぞ、・・・トラ男」

ロー「女帝屋も女帝屋で呼び方変えるな。何親しげにしてんだ」


まるで嵐の如くやってきたルフィは、そのまま嵐のように満足そうに去って行った。ハンコックもそれに続く。もうここまで来たからには彼等は止まらないだろう。


ロー「ったく、何でいつもこうなるんだ・・・」

シャチ「でも、良かったじゃないですか」

ロー「何がだ」

ペンギン「あの“海侠”ジンベエとやり合わなくてすみますよ。ウチの長所が潰されることはないです」

ロー「むしろそれだけ位だろ・・・良いところなんて」

ゾロ「ま、これからも宜しく、ということになりそうだな」

ロー「お前何処から入ってきた?また迷ったんじゃ・・・」


斯くして、「麦わらの一味」と「ハートの海賊団」の強固な同盟に、「九蛇海賊団」も加わることになる(約1名、不本意そうにしていたらしいが)。海上の情勢はこれにより大きく変化した。三者はそれぞれの航路を辿ることになるが、綿密な連絡を取ることで可能な限りの連携を行うことができるようになった。その真価は、後の「黒ひげ海賊団」との交戦にて、早速わかることになる。しかし、この時は誰もがそう予想しなかった。1人は喜び、1人は今後に期待を募らせ、1人は思考を諦めた。

新たな同盟と新たな新時代が、始まろうとしていた。



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