同物同治
ifローが回復しないのに焦れてスキャンしたよ!→結果彼の胃の中、拍動している拳大。
「……」
ローが目をつぶり、深く深くため息をついた。
どうしようもなく。これ以上なく。
――憤怒と呼ぶにも生ぬるい。
その吐息はクルーの背中を冷気のように舐め上げた。誰もが言葉を忘れ、呼吸すら恐れ、ただただ穴が空くほど「結果」を見つめるだけになる。
ロー、ひいてはハートの海賊団総力かつ渾身の治療にも関わらず、一向に栄養状態と消化機能の回復しない“異世界のロー”に痺れを切らしたのが今日だった。
未だに入眠を怖がる“ロー”を最小限の薬で寝かせ、ストレッチャーで速やかに手術室へ。読影に長けた数人が揃い、ローがスキャンを展開し、そして。
「…………」
ローは目を開け、射殺す眼光でそれを見る。
何なら小児でも知っている。ローが最初に覚えたのも多分これだ。たとえば、身の丈十尺の大男ならこれぐらいの大きさになろうという。
心臓。
“ロー”の胃にはそれがあった。
ばくばくと、はくはくと。生物として当然の命の動きは、しかし奇形の鯉が餌をねだっているように醜悪だった。
「お前の心臓は間違ってるからって」
後に。
嗚咽は無く、しとしとと頬を濡らしながら“ロー”が言った。
「おれの心臓(コラソン)はことごとく間違っていたからって。だから治さなきゃいけないって」
ローの知識量をもってしても、読影結果はモノクロだ。臓器を詳細に投影するとなると、能力のリソースが落ちるから。
「迷信のたぐいだが、お前のためなら何でもしてやらなきゃなって、ドフィ……ドフ、ラ、ミンゴ、が」
珀鉛のような白色で“ロー”の胃に我が物顔で居座るそれは、“ロー”がかつて食べさせられたドフラミンゴの糸人形の心臓だという。
世界を渡り、本体から離れ、ローの最初のスキャンに感知されないほど弱ったそれは、“ロー”への栄養素をかすめ取ってでっぷりと肥え太り、スキャンに映るに至ったのだ。
“ロー”は能力を見るとひどく錯乱したので、最初の一度しか使わなかった。ローが指揮を取り、能力外だけの治療で臨んだ結果がこれだった。
目を閉じ、開け、ローがROOMを解除する。“ロー”の体表面に浮かんでいたおぞましい映像も消え、そこには眠る“ロー”だけが残された。クルー達は思わず肩の力を抜いた。それを叱責することもなく、ローはつかつかと壁際に歩み寄って伝声管を掴んだ。
「こちらオペ室、ロー。総員、現時刻をもって緊急浮上の準備に入れ。波の高さも天候も問わず。海王類と船のみ避けろ。繰り返す、こちらオペ室……」
そしてローが伝声管から離れた時、クルーはもう誰もいなかった。各々の持ち場に散ったのだ。
ここにいるのは、二人のローだけ。
ローは努めて冷静にROOMを広げた。指先に全神経を集中させる。
悪性腫瘍を取るために。
END.
調べたら「波高(はこう)」について「音声伝達時には『なみのたかさ』を用いる」とあったのでそれに準じた(気象庁のHP)
2023-05-21 23:11:25付けでぷらいべったーに同文を非公開で投稿しています。
それ以外は無断転載となります。
この追記についてはスレ内で話題にしませんようお願いいたします