同棲トプロ 節分
「準備はいいですか?トレーナーさん」
「トプロこそ」
「バッチリです!……あ、やっぱり待ってください!鬼のお面着けるの忘れてました……」
「それは忘れちゃダメだね……」
「すいません……はい、今度こそ大丈夫です!」
「じゃあいくよ?せーのっ……鬼は外ーーっ!!」
「わぁっ!?あはははっ!こんなんじゃ鬼は外に行きませんよー!!」
「なんのまだまだっ……!鬼は外ーー!!」
「わひゃあっ!!」
「……で、福は内っと」
「福は内、です」
「んで鬼は外ーー!!」
「わふうっ!なんの、私だっ て投げ返しますからっ!!」
「おぶううっ!!?」
「トレーナーさん!?」
「おお……と、トプロ……!ウマ娘の力で投げられた豆は……人間にとっては散弾に等しい……!」
「わあああっ!!ご、ごめんなさい!! つ、つい手加減無しで……!」
「先に逝っているよ……」
「トレーナーさーん!!」
「ふう。疲れたし、こんなもんにしておこうか」
「はい……玄関前はすごいことになっちゃいましたけど」
「後で一緒に掃除しよっか。豆もまき終わったし、次は豆食べよう。ほらトプロ」
「あっ、ありがとうございます!」
「はー……節分の日に食べる豆ってなんでこうも美味しいんだろうねぇ……」
「ですねぇ……あ、トレーナーさん何粒食べるんですか?今年何歳でしたっけ~?」
「もうすぐ三十路です〜。そういうトプロは?なんちゃいになりましたか?」
「女性の年齢を聞くのはすごく失礼ですよトレーナーさん?」
「……ぷっ」
「ふふっ……」
「……そういえばさトプロ」
「はい?なんでしょうか?」
「こないだテレビの雑学コーナーでやってたんだけど、 節分に豆をまくのって鬼……というか、邪気を払うためじゃん?」
「そうですね」
「でも……実は場所によっては、『苗字が「わたなべ」の人は豆まきしなくても良 い』って話もあるみたい」
「へぇそうなんですか?な、なんでなんですか?」
「平安時代の時、『渡辺綱』っていう武士が鬼を退治し た伝説があるみたい。だから『わたなべさんは豆をまくまでもなく鬼より強い』 てことになってるんだって」
「そうだったんですか……初めて知りました……」
「僕もテレビで見て初めて知ったよ」
「……わたなべ、ですか」
「? どうしたのトプロ?なんか遠くを見るような目になってるけど」
「いえ……ただ『わたなべ』って、なんだか、心に引っ掛かるっていうか……デジャヴのような……変な感じがします」
「ふーん?わたなべさんって名前の知り合いなんていたかな……?」
「……いえ。たぶん気のせいだと思います。すみません突然」
「はぁ……?まぁそれならそれで良いけど。……ところでトプロ」
「は、はい?」
「さっきからすごい勢いで豆食べてない?」
「ふえっ!?えっと、あの……すいません、ちょっとお腹空いちゃって……」
「ふーん?えーっと……トプ口の歳は今年で五十いくつになりました、と……」
「ち、違いますってばー!!」