同じ朝焼けの色

同じ朝焼けの色


日下部につけてもらった稽古のせいで節々が痛む体を引きずりながら、這這の体で自室へ戻った。今すぐにでもベッドへ倒れ込み惰眠を貪りたいところだが、絶対に風呂に入ってマッサージして何か腹に入れてからにした方がいい。自認は筋肉痛が明日にでも来る体のままだが、もうそんな年齢ではないのだ。

長く深く息を吐きながらどうにかこうにか椅子に座った。数えているのが馬鹿らしくなるほどの箇所が痛む。まずは足からだろうか。

「日車」

ぬっ、と背後のシャワールームから出てきた脹相に名前を呼ばれて、体に瞬間的に力が入った。腰にびきりと嫌な感触が走る。

「~ッ……」

「日下部と手合わせしていたな。筋肉痛か?」

患部をさすって呻く俺にいつもの無表情で、手に持ったタオルから一枚抜き取って首にかけた。微かに目を見開く。俺と入れ替わりで虎杖が修行中だったはずだ。

「弟の、ための、ものでは?」

「そうだが。悠仁がお前を気にかけているからな」

何と言ったものか分からず黙り込む。弟第一で、弟が気にかけている者は第二になるんだろうかと詮無いことを思った。すぐにでも立ち去るかと思った脹相は、俺の前のベンチに座ってじっと手つきを眺めている。

「…何か用か?」

「いや。俺は筋肉痛とやらを体験したことはないが……マッサージは湯船に浸かりながらした方が効果的らしいぞ」

「そうなのか。ありがとう」

先輩の助言には素直に従おう、と首から下げたタオルを握って立ち上がった俺の肩ががっと掴まれた。予備動作も何もなかった急な接近に心臓が跳ねる。

「やはりまどろっこしい言い方は好かん。日車ァ! 貴様が悠仁の目をまともに見んせいで弟が悩んでいるのだ! 克服しろ!!」

至近距離でドスの効いた大声を聞かされて鼓膜からビリビリと衝撃が走った。思わず両手をあげて降参のポーズをとる。そのままぐわん、と揺らされて全身に痛みが走った。

「ぐ、う、すまない、しかし無理なんだ、」

「……そんなにか?」

解放されてまた椅子に座り込む。先ほどまで瞳孔が開いていた顔は既に落ち着いて、こちらを窺ってくる脹相に、ころころ変わる表情は弟と同じだなと思った。そして同時に虎杖悠仁の顔が脳内をよぎってぐっと唇を噛み締める。

自分のことながらどうすることもできない、もう理屈ではなく生理的なものなんだ、とぽつぽつ吐露していると、相槌も打たずただ聞いていた脹相がずずいと顔を近づけてきた。少し動けばあらぬところが触れてしまいそうな距離にまた、両手をあげる。

「俺の目は見れるのか」

「? ああ……」

綺麗なオレンジ色の瞳がまっすぐ、体の奥まで貫くように目を合わせてくるのはかなり恥ずかしいものがあったが、また体を揺らされては敵わないとそのまま見返した。何のための行動なのだろう、と思ってすぐ弟のためかと打ち消す。

「そうか。俺から始めてゆくゆくは悠仁の目を見られるようになればと思ったのだが、それでは無意味……すまなかった。邪魔したな」

独り言を呟きながらスタスタと廊下を歩く脹相が端に消えるまで目で追って、大きく息を吐きながらなんとか立ち上がった。助言通り湯を溜めようと浴槽に近づくと既に白い湯けむりが立ち昇っている。

「……温かい」

ちょうどいい熱さのお湯に思わず扉の方を振り向いた。懸念としてはこれが、弟のための物だったらどうしようってところだ。

……今すぐにでも入りたいが。やはり一度汗を流してからにしよう、とネクタイを手にかけた。


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