同じ月を見ている

同じ月を見ている


 今夜は仲秋の名月。


 五十嵐家では毎年恒例のお月見会をしていた。…そこに大二の姿はない。

 さくらは仕事で我が家に帰って来られない兄へ、気分だけでもとL○NEすることにした。


 〖五十嵐家恒例のお月見会〗――スマホのカメラで撮った月の画像と共にメッセージを送信する。

 しばらくして、大二から返信があった。


 〖こっちも夏木探偵事務所でお月見会〗

 その一文に大二もリフレッシュしているようだとさくらはホッとする。

 と、続けて送られてきた写真を見た途端、さくらの心臓が跳ねた。

 写真には満月をバックに楽しそうに笑う皆。その中にある人が写っている。


 ―――ヒロミさん…



 ヒロミはさくらがひっそり想いを寄せている人。


 アリコーンによる少年少女誘拐事件が解決して以降、ヒロミと逢っていない。

 先日の夏祭りも、彼の人は仕事が忙しくて行けないとのことだった。


 淋しい…とは思うけれど、それは言えない。


 写真とは謂え、久し振りに好きな人の顔を見られて、さくらは胸がいっぱいになる。


 淋しい。――そんなことを口にしていい程のものが自分と彼の間にない。

 逢いたい、なんて…


 でも…、


 逢いたいよ


 どうしても、そういう感情(こころ)が溢れてしまう。



 さくらは、すぅと息を吐いて。

 夜空を見上げた。

 ―――ヒロミさんもこの月を見ているのかな。

 月明かりの下、さくらはヒロミを想う。




 さくらは再び大二にL○NEを送る。

 〖来年は皆でお月見したいね〗

 すぐに大二から返事がきた。

 〖そうだな〗

 〖そのときはヒロミさんと狩崎さんと花さんと玉置と留美ちゃんを家に招待しようか〗


 大ちゃん…。――気遣い屋の兄らしい発言だ。

 さくらは優しい気持ちになって

 〖うん、皆に宜しく言っといて〗

と返したのだった。




 秋の夜、空に浮かぶ満月が光輝いている―――。

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