吊り笑い
天竜人って人の表情を指定してきたりする事あるし、こういう事もあったんじゃないかと思った結果のちょっとした話
「笑え」
突然の言葉に思考が一瞬停止した
言葉の意味は分かる。だがそれを言った意図を理解出来ない
そんな俺の考えを知ってか知らずか、床に下ろされた鳥籠の格子の向こうに置かれた椅子に座り、頬杖をつくドフラミンゴは愉快そうに話を続けてくる
「悪ィ、説明不足だな。つってもそんな大層な理由がある訳じゃねェんだが」
頬杖を止めて体を前のめりにして笑う様子からして、ろくでもない理由なのは目に見えている
「最近のお前の反応が少しばかりつまらねェと思ってよ。だから笑えとそう言っただけだ」
つまらない、か
別に楽しませる気は一切なかったんだが、どうやら俺が無反応でいる事が増えたのが気に入らないらしい
本当は一つだって命令に従いたくはないんだが、俺が逆らうと無関係の奴が殺されかねない。それは流石に申し訳が立たない
とはいえ普段と比べて意味の分からない無茶な命令と違う、ほんの少し表情を作るだけの命令だ、すぐに終わる
「……分かった」
口角を上げる。それだけで終わる
そう思ってた
「悪かねェが、まだ物足りねェな」
「物足りない……?」
「フッフッフ、あァそうだ、昔みたいに笑ってみろ。俺の物になる前みたいにな」
昔みたいに
何て事ない一言がどうしようもなく重くのし掛かってくる
(俺、どんな顔してた?)
思い出せない
ここに来る前の自分が思い出せない
どんな事を考えて、どんな気持ちで、どんな顔をしていたのかが一切思い出せない
それ程までに自分が砕かれてしまっている事に愕然とした
「おいロー、俺は笑えって言ったんだ、そんな顔をしろとは言ってねェよ」
相変わらず愉快そうにしているドフラミンゴに俺は何も言い返せなかった
だって今、自分がどんな顔をしているのかすら分からなかったから
「仕方ねェな、少し手伝ってやる」
ドフラミンゴがそう言って手を動かせば、顔に少しの痛みが走る。あいつの糸で無理矢理口角を上げられるのがすぐに分かった
あーでもないこーでもないと何度も表情を変えられて、終わりの見えないこの命令に、考える事を止めて、ただ表情を弄られるのを受け入れた