合格通知

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真っ白いちょっと小悪魔なお姫様

 見覚えのない女子に話しかけられ扉間は立ち止まった。知り合いかどうか判別するために女性をジロジロと見るわけにも行かず扉間は取り敢えず知り合いではない体である程度距離を取ることにした。

「扉間くんだよね」

「……ああ」

「イズナ君が好きな子、知らない?」

「申し訳ないが、オレは知らん」

「そっか、ごめんね。引き留めて」

去って行った女子を眺めつつ、結局誰だったのか、ということを扉間は考えようとしたがすぐにどうでも良くなり帰るために歩き始めた。暫くして、そもそも、他校の制服だったことに気が付いた扉間が、時間を無駄にしたと後悔する。イズナと扉間は幼馴染ではあったが、中学からお互い別のところに通っている。日常生活での交流はあるが、この時期に好きになる子なんて通っている学校の子が大半だ。自分に訊かれたって困る、と扉間が脳内で抗議をした。

「扉間」

「……イズナか」

「何しかめっ面してんのさ」

「先程、貴様に片想いしているらしい女子に絡まれたのでな」

「えっ、イズナ君を取らないで、とか?」

「受験勉強で……貴様はAO入試だったな。寝不足か?」

扉間が横に並んできたイズナの顔を覗く。顔色は悪くないな、と言いながら扉間は自分の付けているマフラーを外しイズナに巻き付けた。

「……なにこれ」

「マフラーだが?」

「そうじゃなくて、いや、お前に言うだけ無駄か」

「寒くて思考がおかしくなっているのかと思ったが違ったか」

悪戯っぽく扉間が笑った。イズナが扉間に聞こえない程度に溜息を吐き、自分の鞄からマフラーを取り出す。扉間はあまり身に付けないデザイン。それをイズナが扉間の首に強引に巻いた。扉間が一瞬目を丸くした後、くすっと笑って似合っているか、と訊いた。

「うーん、オレのを付けてる感が凄いかな」

「貴様のものだから当然だろう」

そう言いながら扉間がマフラーに顔を埋めた。あ、貴様の家の匂いだな、と扉間が呟く。イズナがホント、お前、と呟いた。

「そうだ、クリスマスはどうするつもりなんだ?」

「お前次第」

「なんだそれは。……確か友人の一人にクリスマスなんとやらに誘われたな」

「なんとやら??それに行くわけ?」

「はっきり覚えていない時点で察してくれ。それにオレは男ばっかりの下品な空間は好きじゃない」

「そう」

さっきより明らかにホッとした声でイズナが言った。扉間の方は先程から吹いている寒風に身体を震わせていた。それを見てイズナが、扉間の手を自分のポケットに入れた。扉間の手が好き勝手にイズナのポケットの中で動く。

「む、温いな」

「そう思うなら暴れないでくれる?」

「悪い。貴様のだから良いかと思って」

「オレ以外にするなよ」

「まずこんなことをする者は貴様以外居ないな」

居たら教えて、とイズナが言う。扉間が、多分言われなくとも、物珍しさで貴様に言ってたと思うぞ、と返答した。イズナがその言葉に笑って、まさかオレも珍獣扱いだったりする?と訊く。扉間が無言で首を横で振った。

「まぁ、オレの見た目に怯まず話しかけた時点である意味珍獣かもしれん」

「見る目があると言えよ」

「冗談だ。なんだかんだ言って貴様と会えてよかったと思ってるさ」

「扉間」

イズナが、ポケットにはいったままの扉間の手を握った。扉間は目を丸くしたが逃げようとはしない。

「お前さ、初めて会ったときのこと覚えてる」

「ああ。貴様に白雪姫だ!と言われたな。で、白雪姫の髪は白くない、とオレが訂正した。それがどうかしたか?」

「オレにとって、さ。お前は」

イズナが扉間の唇に触れるだけのキスをした。ずっとお姫様なんだ、とイズナが囁く。一拍置いて、扉間の頬に寒さによるものではない赤が入った。

「オレを王子様にしてくれる?」

「…………貴様のお姫様志望の女子は多いぞ?」

「志望でしょ?で、オレはお前の王子様として合格?」

返事の代わりに扉間が無言でイズナの唇に軽いキスをした。単に照れて言葉に出来ないのでキスで誤魔化しただけだとイズナは知っていたが、とんだ小悪魔だな、と顔を赤くさせながらそう思った。

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