台風接近で嬢が弾ける
天翔ける翼の最高傑作「シップ」
「ダメ」
「わたくし、台風コロッケに憧れてまして」
「ダメ!!」
色々あってジャスやオルフェにからかわれつつも──まあ、なんだ、そういう関係になったアタシだからこそ分かることがある。
ジェンティルはあのマックちゃん以上に『弾けるタイプ』のお嬢様だ。
可愛い子には旅をさせよ、という諺の真意──幼少のうちにやることやっとかないと、後々になってネオユニヴァースもビックリのビッグバンを起こすから。
これがマックちゃんだったらプロレスみたいなもんだし、所謂『ブック』に従って悪ノリで一緒に屋台までかっ飛ばすと洒落込むんだが、ジェンティルの前ではどうにもダメだ……アタシわかんねえよ、こんなんでいいのかよ……
ジェンティルの雨合羽、半年前シチーの姐さんのモデルショーだかで見ためっちゃハイブランドのだし、普通なら服に着られる所を『赤ずきん』みてえに見事に着こなして見せてる。横殴りで稲妻が突き刺す篠突く雨でさえ、貴婦人の前では己の美しさの引き立て役に……ってオイ!マジで止まれ!もしオメーに何かあったらアタシは……!
「分かったわーーーかった!ゴルシちゃんが腕によりをかけて特製ニャルラトコロッケ作るからステイ!」
「あら」
「ったく……小田原城の鬼瓦みたいな形相はして欲しくねぇからな」
「な、なんですって!?御堀に投げ込みますわよ!」
本当はハナっからゴルシ様コロッケが目当てな、悪名高いドア論法──ふと過った。それはそれでいじらしいんだが、基本ストレートで攻めてくるジェンティルの性分からしてそりゃなさそうだ、偶然だな。たぶん。
☆
「水も滴るいい女になりましたわ……」
今超ゴルシ規的措置で調理室を借りてる。内緒だぜ?おもむろに合羽を脱ぐジェンティルの前に、雨露で透けて見えるふたつの豊かな……って待て待て待て!
「透けてる!タオル!タオル!」
「まあ、視線を感じると思えば──ふしだらですのね。目の前のお料理に集中してくださる?」
「いつも以上に目のやり場に困るからだっての!」
「──そう言えば、ドロワのレッスンで『零れてしまった』時も、妙に慌てつつ視線はそのままでしたわね」
「げえっ!?」
「冗談です。さっきのお返し、ですわ」
「冗談に聞こえねーんだよ!」
──っぶねー、バレてなかったか……なんつーか、アタシと付き合ってからのジェンティルは口も達者になった気がする。ここで『好きな相手にはいつの間にか語調も似せていくもんなんだよな』なんて言っちまったら何されるか分かったもんじゃないし、サクッとコロッケしばくとするか。
へへっこいつが取っておきの隠し味、アタシとジャスと最近ダチになった七つの海を股に掛ける『異次元の逃亡者』との3人で引き上げた『学名もまだない深海カニ』だ。しょっぱくて美味くなるぞ?ああこれも内緒にしといてくれよな、トキノ……やべっ、緑のアイツにバレたらうるせーから。
作ったコロッケは12個。仮に匂いに釣られてパクパクしにくる奴がやって来ても問題ナシって寸法だ。12ってのは2,3,4,6……と分けやすい数字だから、こういう時さりげなく便利なんだぜ?
☆
「どうよ」
「──参りましたわ、これからは『食神さま』と呼ばせていただきます」
「衣、ついてるぞ」
「──……!!!!」
「いて、痛いから、痛ぇから!」
──ジェンティルが口元につけてた『お弁当』をサラッと食っちまったのはまずかった。頬を膨らましてのぐるぐるパンチなんか、何時ぶりに見たんだろうな?
ま、お気に召したことだし後は一緒に食うだけだ。これにてゴルシちゃんのコロッケ大作戦、一件落着──
「1コくださいまし」
──『やはり来たか、名優』
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