可能性世界:もし対魔法災害緊急調査室に三人目の追加魔法少女がいたら+おまけ
魔法少女ネーム【名探偵クレバー】/本名:紅林魔鏖(くればやし・まお)
所属:日本・警察庁公安部部長→対魔法災害緊急調査室。冤罪魔王。
ステッキ感情『喜』/形状『探偵のパイプ』
因縁対象:ナイン
特徴:拷問大好きの冤罪刑事(元)。その手段を選ばない性格故、同じ高校の後輩である柊聖が唯一慕う先輩でもある。彼女がナインの親族からタレコミを受けたことが、アンノウンハンドの母親の死の間接的な原因となった。
歌唱魔法:『ホシは絶対うたわせるよ』
【おまけSS:囚われの虎】
街の人口の数%を死に追いやったあのバケモノとの戦いからちょうど一週間。
私、遠野詩黄はここ数日でほぼ一睡もせずモニターに齧りついていた。別にトラウマのせいで眠れなかったとかではない。それよりも重要なことがあったのだ。
つい先程100万人を越したばかりのチャンネル登録者数。
コメント欄を吹き荒れる称賛と罵詈雑言の嵐。
『よくのうのうと配信できるな』『ヤッパコイツ面白ェー 毎日見テテモ飽キナイワ』『お母さんを返して』『動画うp マジ人殺し』……
画面を駆け抜ける反応の数々に、つい気持ちの悪い笑みを浮かべてしまいそうになる。
これが私、サベージが壊異戦で得たものだ。
視界の端を流れるコメントを見ながら、確かな生きている実感を噛み締めた。
いつの間にかもう時計は深夜12時を回っていて、コメントの流れも少し収まってくる。
記念配信を止め、動画編集でもしようとパソコンの横に伸ばした手が空を切る。
「クソっ、これでもう最後か」
見るとお気に入りのエナドリの在庫が切れていた。
仕方ない、少し割高だけど近くの自販機に買いに行こう。
無造作に置いてあるステッキを引っ掴み、家を出た。
あんなことがあってまだ一週間とは思えないほど静まり返った夜道。
自販機のボタンを押してから缶が取り出し口に落ちるまでの一瞬、眠気のせいか意識が飛んでいた。
後ろから声がした。
「遠野詩黄さんですね?」
振り向くと黒服の男たちがいて、誰だお前ら、と言う暇もなく視界がぼやけ、目の前が暗転した。
ステッキに手を伸ばす暇すらなかった。
────────
気がつくと私は取調室のようなところにいて、椅子の上に縛り付けられていた。
目の前にはハンチング帽の女がいて、不気味な笑みを浮かべている。
誘拐されるなんてまったく有名人は辛いな、と夢うつつの中で思いつつも、私は全く恐れていなかった。
さっきは不覚を取ってしまったが、魔法少女の膂力なら何人いようが余裕で制圧できる。軽くあしらって半殺しにして帰ろう、きっといい動画のネタになるに違いない……
そこまで思ったところで、ポケットに入っているはずのステッキが消えていることに気がついた。
「おや、お目覚めかな?」
「君にここに来てもらったのは大した用事じゃないんだけどね、少し聞きたいことがあるんだ」
ハンチング帽の女が声をかけてくる。妙に整った顔をしているが、まさかこいつ魔法少女か?
なにが大した用事じゃないだ、ここまで雁字搦めにしてステッキまで取り上げるのが些細なはずないだろう。
「教えてくれるかな、遠野詩黄……いや『サベージ』くん」
顔が青ざめる。私、詩黄が魔法少女であることは親どころか同級生にすら教えていないはずだ。
曲がりなりにもVtuberらしく漏洩対策はしている。無名時代ならともかく、ここ一週間は個人情報を特定できるようなことなど一切口に出してないのに。
なんで、と言いかけた言葉は噛まされていた猿轡に阻まれた。
「あの異形の姿を生放送で流したのは君かい?」
相変わらず張り付いたような笑みを浮かべる女の言葉に、思わず猿轡を飲み込みそうになった。鼓動がにわかに早くなり、ベッタリとした嫌な汗で服が張り付く。
「ああ大丈夫、そんなに怯えることはないんだよ」
「我々はただ真実を知りたいだけなんだからね」
猫を撫でるような、子供をあやすような甘い声で目の前の女はそう語る。なんなんだこの女は。
「私の名前は名探偵クレバー。真実を突き止める魔法少女探偵さ」
正義のヒーローであるかのように大仰にポーズを決めたそいつの目は、全く笑っていなかった。
────────
──三時間後。
取調室の詩黄の顔はとうにくしゃくしゃに崩れていた。身体のあちこちに浮かぶ青あざと根性焼きの跡がその理由だ。両手の指の何本かはあらぬ方向に折れ、親指は指締め用の拷問器具で固定されていた。
「大切なお手手が無くなっちゃうね、もうゲーム配信できないねぇ。でも仕方ないよ、あんな魔法災害を起こした奴は死ななくちゃならないんだ。残念だねぇ、遠野……いや、虎サイボーグVtuberのサベージくん」
悪魔はにこやかな笑みで器具のボルトを締め付ける。
痛い。痛い。痛い。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。
せっかくあんなにチャンネル登録者数を増やせたのに。まだやりたい企画だっていっぱいあったのに。編集中の壊異動画アーカイブも、もう少ししたら再投稿するつもりだったのに。
「君がやったんじゃないってことはわかってるよ」
それは、闇の中に照らされた一筋の光明のように思えた。
「そういえばあそこに配信者はもう一人いたもんな」
「ほらこいつ、アンノウンハンドって言うんだけどさ」
「とりこ♡ちゃんねる。知ってるでしょ?」
────────
椋執恋による死の配信事件を受けて急遽設立された魔法災害緊急調査室。本部があるビルの一室のすぐ外で、廊下を歩く2つの人影があった。
両方ともそのスーツ姿に似合わず、子供の玩具のようにファンシーなタバコ型ステッキを手に持っている。
「先輩もお人が悪い、あれを誰がやったかなんて赤子でも分かることでしょうに」
「嘘も方便、というかね。時には大義のために少しのフェイクは必要なものだよ」
「お変わりないようで。ところであのガキはどうします?」
「ステッキはこちらが握ってるんだろう?利用し尽くして最後に切り捨てればいいさ」
「猫や狂犬よりもよっぽど扱いやすいしな」
闇に燻る陰謀は、滅びの旋律(うた)を歌い出す。
【名探偵クレバー/紅林魔鏖(くればやし・まお)】
固有魔法:ホシは絶対うたわせるよ
尋問、拷問、すべてを駆使して本人が誰かに「供述」を強いることで発動する魔法。
供述の瞬間関係者全員の過去の記憶が供述通りに改竄され、供述者と供述上の実行者と真の実行者、そして本人が除外設定した対象を除く全ての者から「供述の出来事=事実」として違和感なく認識されるようになる。
概要:対魔法災害緊急調査室に所属する三人目の魔法少女。黒い噂の絶えない警察庁の重鎮で、過激派退魔師集団『焔の会』に多額の寄付をしている。柊聖とは同じ学校の卒業生で、今も親しい。この魔法災害を機に民間人の犠牲を厭わず人外を一掃しようと考えているようで…?
【世界線解説】
名探偵クレバーがサベージを誘拐して拷問(本格的なものではなかったが、何度か殴打して根性焼きをし指を数本折ったあたりで心も折れた)し望み通りの「供述」を引き出した結果、固有魔法の効果によってアンノウンハンドとサベージを除く全レイド参加者の認識が改変。
ノーバディノウズはサベージではなくアンノウンハンドを殺害対象として追い始めるようになる。
ちなみに、金光媽祖は執恋がそんなことをするはずないとわかっているため、魔法の影響下にありながらもアンノウンハンドと共に逃避行をしている。
拉致してまで奪った時計型ステッキがサベージのステッキではなく、壊してもなんの意味もないしそもそも壊せないことに調査室組が気づくのはちょっと先の話。
なお、わざわざ拷問してサベージの心を折った理由は、調子に乗ったサベージが「私がやった」と供述してしまう危険性をできる限り下げるためで、猿轡を噛ませたのも不用意な発言をさせないためである。
【セリフ集+おまけ】
「人間未満のガキが動画投稿なんかして人間様のフリをするなんてな、2700年早いんだ」
「こっちも飼い猫が最近やんちゃでね、これならまだ虎の方が扱いやすいぐらいだよ」
「ふざけるな、ふざけるなクソガキども!!!この私を、名探偵クレバー様の完璧な推理をコケにしやがって!!!」
「聖!!!聖助けてくれ!!!お前の煙があれば魔法少女なんて一網打尽のはずだろ!!!」
一か八か、持ってきたあのステッキを使うしかない。
懐中時計型のブランクステッキに魔力を込めると、後ろから嘲るような笑い声が響いて、そのまま紅林魔鏖の意識は永遠に途切れた。
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件名:【レイドイベント:繝九Ε繝ォ讒倥?縺翫b縺。繧 の討伐】