可哀想なアオキさん
閲覧注意要素しかない
オモダカがジャケットを脱ぎ捨てる。
いつもは風を受けて揺れる彼女の豊かな髪が、全く動かないことにふと違和感を覚えた。
「貴方には、私のもう一つの姿を見せておこうと思いまして」
革靴を鳴らしてこちらに歩み寄るオモダカの髪を近くで見て気付く。長い髪は、宝石のような——いや、宝石そのものの輝きを放っていた。
「目を逸らさないで」
瞳の奥の黄色い光が、こちらを見ていた。紺の瞳孔を塗り潰すように、光が強さを増していく。
その妖しい輝きに思わず目を伏せて、慌てて視線を上げた時には、そこにはオモダカはいなかった。
「フロシチウ」
キラフロルだ。少し大柄な個体なのか、記憶にある彼女の手持ちよりも一回り大きい。その下には見覚えしかない高級そうな革靴や、中身を失くしたスラックスが散乱している。
なんだこれは。なんの冗談だ。
そのキラフロルが、一体どこからやって来たのか。
脳が理解を拒む。きっとこれは、理解してはいけないものだ。それなのに、こんな時に限って口は滑るように動く。
「トッ、プ……?」
楽しげにその場で旋回するキラフロルを見て、その答えがイエスだと理解してしまった。
「……キ、すぐに、……」
どこからか——いや、きっと目の前のキラフロルから、途切れ途切れにオモダカの声がする。
ここにいたら戻れなくなる。震える手で鞄を掴み、ドアへ駆け出そうとして気付く。
足が動かない。
……違う。
「あしが、ない?」
どさり。鞄が落ちる音。手袋が後を追って落ちていくのを見て、腕も消えたのだと悟った。
身体が軽い。地面を失って、重心がぐらぐらと揺れている。二度と大地の確かさを感じることはないのだろう。
「あ、ああ……」
「立派なキラフロルになりましたね、アオキ」
オモダカの声が、今ははっきりと耳に届く。言語機能までポケモンに成り果てたのか。
「……フロシチウ」
口から零れたかすかな声をかき消すように、小さなキラーメたちの歓声が響いた。