叩いた石橋が壊れた
時系列:ルウタ入隊当初「背中取られちゃあいかんでしょ。 諜報機関なら」
声をかけられ弾かれる様に振り向くとそこには海兵。
ただの海兵ではない、大将“青雉”。
対して声をかけられた男はサイファーポールの一構成員。
格が違う。
体が震え、手に持っているトーンダイアルを落としそうになる。
「ふ~ん。TDだったか?そこに何入ってんの?海軍本部のお膝元でさ」
「こっ、これは!」
「聞かせて下さいよ、っと」
気付いた時には青雉はまたもや背中側に、しかもTDを奪っていた。
止める間も無く起動される。
『……うりゃ』
『ふぎゃっ!?ちょっとルフィ!起こしてとは言ったけどさ!
鼻摘まむことないじゃん!!』
『にっしっし!
隙だらけのウタが悪い!』
『もー!まあ時間通りだからいっか。待ち合わせ場所、覚えてる?』
『おがくずベルんとこだろ?』
『オックス・ベル、ね。じゃ、着替えてくるから!』
『お~。後でな~。………ししし、 ふぎゃっ!だってよ』
録音が終了した。
青雉がひどく狼狽し、TDと諜報員の男を交互に見ている。男は苦虫を噛み潰したような顔で見つめ返す。先に口を開いたのは青雉だ。
「え~~っと……、CPは、これで給料貰ってんの?」
「おれだってイヤですよォ!!!」
マリンフォードの町、その路地裏で男は諜報員失格の叫び声を挙げた。
『革命家ドラゴン』、
『赤髪のシャンクス』、
大犯罪者の子供2名が海軍へ入隊。
さらに能力者。
ガープが数年前から騒いでいた事、 そして五老星の強い後押しもあり、政府側の動きは早かった。
CPを中心とした監視班が編成され、 盗聴電伝虫、連携を円滑にする映像電伝虫、録音用に養殖に成功したTDと兼ねてより研究されていた最新機器も投入された。資金をつぎ込み予定より数年間前倒しで実現させたとの事。
更に配属される赤犬派閥の人間にも協力を要請。
正に万全の体制。少しでも不穏な動きがあれば即“対処”が可能であった。
結果は杞憂だったが。
盗聴して海兵としての会話が聞こえるのは想定内だった。問題は2人きりになると始まるカップルかと勘違いする様な会話。とにかくいたたまれない。
ルフィの問題行動も海賊の捕縛やガープとセットだったりで、海軍側が泣きをみればそれで終わってしまう。
ならば思想はどうかと内部の海兵から“赤髪”の話題を振っても
ウタは、
「絶対に捕まえる」と憤慨しながら
ルフィは、
「絶対に越える」と決心を固めながら
といった様子で、期待こそ出来るが特に怪しい素振りは確認出来ず。
“革命軍”にいたっては
「何ですかそれ」「何だそれ」
が第一声であり説明が必要だった。
こんな2人を監視して成果が有る筈も無く、今後の対応の殆どを海軍に任せる事になり半年程たった頃には人員の大幅な削減が決定。
サカズキからの定期報告も現在、非常に簡素なものになっている。
「といった感じで成果が出ないわ、 ウタウタで眠る事も有るわ、加えて海軍に丸投げ出来る子供の乳繰り合いなんて聞きたくも見たくも無いと、CP内で押し付け合いになりまして…。それに負けたのが私です……」
(しょーもな)
上述した内容を半泣きで語った諜報員。それに対してクザンの反応は冷淡であった。
生まれに囚われ大袈裟に対応して得られたのが若い男女の会話のみ。
世界政府とあのサカズキがである。無理も無い。
まあ後者は件の2人に頭を悩ませている姿を度々目にするので同情するが。
クザンはウンザリしながら問い質す。
「んで。さっきの会話はどこのよ?」
「訓練所です。ウタウタの練習後だった様で」
「……となると本人の部屋も」
「はい、他にも盗聴出来そうな所はだいたい……。ああ!ウタさんの方はちゃんと女性職員が担当して」
「んな事わ~ってる。得るもん無ェならいっそ上に止める様に言ってやろうかと思ってさ」
「本当ですか!ありがとうございます!最初はまだ良かったんですが、今はもうルフィの対応でサカズキさん達はいっぱいいっぱいだから協力も得られないしウタさんにはバレるしでとにかく大変で…」
男の顔が一転して明るくなる。クザンとしても痛くも無い腹を探られるのは気分が悪い。
…が、男が言った内容に目を見開く。
「……は?バレる?お前それ」
「ほらルフィ!見て!居るでしょ!」
「おお居た!ヘンタイのおっさ~ん!とクザ~ン!」
「クザン大将!お疲れ様です!
……その感じだと聞いたんですね、監視の事」
そこにとんでもない呼び掛けをして近づいて来たのはルフィ。傍らにはウタも居る。共に休憩時間なのだろう。
「……聞いたよ。お疲れさん。えっとよ、ルフィ。ヘンタイ?」
「ん?この真っ黒のおっさんだ。コソコソとよ~ウタの声取ったり、周り動いてんだからヘンタイだろ?」
「任務だからだよぉ!!」
挨拶を適当に済ませ、ルフィに問えばCPの男を指差し無慈悲に言い放つ。
男の叫びを無視しクザンはウタに向き直る。
「バレてるってのも聞いたが」
「見聞色使えますもん、私。半年もやってりゃ流石に気付きます」
「良く我慢したな…」
「ガープさんとセンゴク元帥に言われたんです。分からず屋を相手にするより海兵として実績重ねる方に集中する様に、と」
「成る程なァ。そだ。話も聞いたし、この無駄な監視止める様に上に言ってみっから」
「本当ですか!それお頼みしようと思って来たんですよ!」
「やったなウタ!」
監視する方される方、ほぼ同じ反応であった。新技術を投入した以上、成果が無いと上も引っ込みがつかないのだろうが無駄なものは無駄である。
「せめて何を取ったか聞かせろっつっても『無理なんだよ~』としか言わねェもんなァ、このおっさん」
「それ前に説明してくれたじゃない。『CP所有の機密情報の漏洩に当たる』って。今の私達じゃ聞いたらもう海軍居れなくなっちゃうよ。気持ちは分かるけど」
(鼻つまんで多分デート?の待ち合わせしたアレが機密情報で、半年分あるって超おもしれーな)
口々に愚痴を言い合うルフィとウタ。その機密情報を聞いてしまったクザンはバレない様に笑いを堪える。
階級のおかげで閲覧しても問題ない立場ではあるが、ウタウタとガープの拳が飛んでくる可能性は有る。黙っておいて損はない。
ふと男を見れば居心地が悪そうだ。 そもそも男も被害者側。今後の事も話合わなければならない。
「そーいう訳何で。おれこのヘンタイのおっさんと「あなたまでそんな!」お話しなきゃいけねェから。おめェらもう行っても大丈夫だ。休憩時間終わっちまうぞ?」
「頼むぞクザン!サカズキのおっさんも『止める様に言ったのに返事が遅いんじゃァ、誰かさんの始末書みたいにのう』って困ってたからよ!!」
「それあんたに言ったんだよ…。ではどうかよろしくお願いします。失礼します!」
ルフィとウタが挨拶をしながら去っていくのに手を振って答える。路地裏から出ていくのを見届けると話合いが始まる。
「ではよろしくお願いします…。何からしましょう?」
「取り敢えずサカズキと話してみねェとな。行くぞ」
「はい!」
「さ~てどうからかおうかね。こんな事半年もやったんだもんな~」
「……ケンカには巻き込まないで下さいよ……」