古の龍と金獅子と千年竜伝説。

古の龍と金獅子と千年竜伝説。

オオナズチの人

「何の用で儂を呼んだ?金獅子の小僧」

 全身紫一色の魔女───光月ナズナは打っさん臭い物を物を見る様に彼を見据える。

「・・・・何だよ、やけに疑り深いじゃないか」

 かの金獅子のシキとも言えども、彼が海賊になる遥か前からこの海で活動している、妖怪よりも妖怪地味たナズナと言う女性を相手にするのは骨が折れる。

 真正面から殺しに行けば、自らなら負ける事は無い・・・そんな慢心は端からしていない。

(コイツは俺やリンリンの諜報技術を持ってしても、何時から活動しているか分から無い、本当に全てにおいて妖怪地味た女だぜ。・・・故に出来れば殺り合いたく無し、それに──)

「生憎と儂が持っとるのは妖刀『蜃』であり、妖刀『空亡』では無いぞ」

「────」

 ・・・シキは押し黙る。

 彼は妖刀『空亡』を話題に出していないし、飽くまで思考したまでだ。

「・・・まぁ、この『蜃』と言う名は勝手に儂が付けた物、実際どうかは知らんがなぁ」

 何て事無くナズナは煙管の煙を吐き出しながら、そう一人ごちる。 

 そして徐ろにシキの方へ顔を向け、

「む?・・・もしかしてここ禁煙か?」

 と申し訳無いと思っても無さそうな顔をして妖艶に、優雅に、華麗に、憎たらしく笑うナズナ。

 それを受けて金獅子のシキは背中が冷や汗で濡れてるのを自覚しながら、殺意を込めてナズナを睨む。

 ・・・尤も目の前の彼女にそれが効果が無いのは百も承知なのだが。

 自分の思考を当てられたのは恐らく『赤の伯爵』パトリック・レッドフィールドと同じ卓越した見聞色の覇気による読心術の様な物だろうと当たりを付け、平静を保つシキ。

「・・・伊達に長生きはしていないって事か、クソババアが」

「そうじゃな。儂は覇王色の覇気以外の事は『六式』含めて大方出来るぞ」

 一旦言葉を区切って煙管の煙を吸い、それを堪能してから吐き出し、愉快そうにシキを見据えるナズナ。

 金獅子のシキはそれを何も言わずに眺めるだけだ。

 裏の社会は疎か世界政府関係者でも情報屋『薄墨』ミズハの名は知らぬ者は居ないとばかりに轟いている。

 海賊『霞隠れ』トヨタマと言う名もまた数十年前から都市伝説として語り継がれており、ある程度の年齢の人物ならば知っている程には有名だ。

 尤も何方も同一人物で、正体はこの光月ナズナだと知っているのは嘗てのロジャー海賊団と金獅子のシキのみだ。

 それは彼女の隠蔽技術が遥かに優れている証明であり、それには流石のシキと言えども舌を巻くしか無い。

 ・・・正体を知っている人物が限られると言う事は、自ら正体を明かした人物以外は自らバレる事無く手を下したと言う訳であり、彼女暗殺技術もまた超一級品である事を表している。

 そう思考するシキを尻目に話を再開するナズナ。

「尤も妖刀『空亡』の伝説が事実ならば、覇王色の覇気の適正の無い儂でも覇王色を纏う事が出来るじゃろうなぁ。まぁ、大方妖刀『蜃』が妖刀『空亡』かどうか調べる為に取り上げたのじゃろう?・・・おぉ怖い怖い、そんなに睨まないでくれんかの?実の所妖刀『蜃』の正体は儂でも知らなんだ」

 その言葉を受けてもシキはそれを疑う事を辞めず、あいも変わらずナズナを睨み付ける。

 それを受けてナズナは不機嫌な態度を隠そうもし無い。

 ・・・それは金獅子のシキをしてそれ程までに彼女の諜報技術が優れていると思っていると言う一種の裏返し的態度であるのだが、当のナズナはそんな事気付かずに不機嫌そうに眉をひそめるだけだ。

 気分転換気味に金獅子のシキとナズナの間にある机の上に置かれている茶菓子を口に放り込み、それを飲み込んで話を続けるナズナ。

「・・・そもそも『黒刀』とは永遠に自身を武装硬化し続ける刀の事を言うのじゃ。高名な鍛冶師によって鍛えられ、嘗て名を馳せたであろう剣豪の手により完成し、自らを武装し続ける刀こそが『黒刀』と呼ばれるのじゃ」

「つまり妖刀『空亡』は『黒刀』に至っていると言う事か・・・そう言えばお前が持ってる妖刀『蜃』は何故『黒刀』に至って無いんだ?お前程の覇気使いならとっくに至ってると思ってたが」

 それを聞いて一瞬何を言っているのか分からなかったナズナは、理解した後にそれを笑い飛ばした。

「儂はそこまで至れんよ、全くお主儂を買い被り過ぎじゃ。それを言うならお主やリンリン、ニューゲートが『黒刀』に至っていない方が不思議じゃよ、儂は」

 そう断言され、表向きは引き下がる金獅子。

 ・・・尤もナズナの言葉を信用した訳では無いが。

「まぁ、その話は良い。さっさと儂をこの浮き島に読んだ理由を話さんか、小僧」

「ジッハハハハ!そうだった、まだ呼んだ理由を話しちゃいなかったな・・・呼んだ理由は他でも無い──お前は千年竜伝説は知っているか?」

「え、祖龍伝説じゃって?」

「は?祖龍伝説?・・・何か聞いたら碌な目に合わなそうだから、それ以上は聞かねぇが俺が言ったのは千年竜伝説だ、紫ババア」

 そう言いながら千年竜の伝承についてナズナに詳しく教えるシキ。

 ・・・実の所ナズナが知っている前提で本拠地に呼んだのに、まさか知らないとなって正直驚いたシキ。

「──とまぁ、今教えた事が千年伝説の概要だ。・・・全く妖刀『空亡』を始めとしたこの海に隠れた事を多く知っている癖に、千年竜伝説について知らんとは何とも不思議なババアだぜ」

「悪かったな、不老不死に自体に興味関心が無くて・・・不老不死なんぞ精神や心が不変でない無い時点で、不老不死自体が破綻しているも同義じゃと思うがなのぉ」

 そう言ってDr.インディゴが用意した緑茶を飲み、喉を潤すナズナ。

 言っている事は分かるので、黙ってナズナと同じく喉を潤すシキ。

「実の所お前を本拠地に呼んだ理由は千年竜について知っていたら、俺とお前で手を組み、それを狙おうと思っていたんだがなぁ・・・知らなかったのならそう用は無い、刀は返すから帰ると良い」

 シキがそう言うとDr.インディゴが奥の研究室から妖刀『蜃』を持ってやって来て、それをナズナに手渡す。

「ご苦労。では、さらばじゃ金獅子の小僧よ・・・あぁ千年竜について分かった事があったら教えてやろうて、期待せずに待っておるが良いぞ」

 そう言って後にナズナの姿は消えて無くなった。

 シキの見聞色の覇気でも捉える事が出来無い。

「ジハハハハハ!相も変わらず、底知れないババアだぜ・・・で、調べた結果はどうだったDr.インディゴ」

 シキにDr.インディゴと呼ばれたピエロメイクをした道化風の科学者の男は無言でパントマイムをし、シキに何かを伝えようとしている。

「あ?」

「シキの親分!」

「喋るんかい!・・・で、どうだったDr.インディゴよ?」 

 そう問われたDr.インディゴは興奮冷め止まぬと言った態度を隠す事無く、シキが本拠地にナズナを呼んだ、その真の狙いに関した話題を喋り始める。

「はい!妖刀『蜃』、あれは本当に素晴らしい物ですよ親分!・・・刀を振るう時透明になる妖刀とナズナ殿は思っている様ですが、実際は持ち手の覇気を大量に吸い取る事で刀身を透明にする以上の『何か』になると言う結果が出ました」

 それを聞いてシキは悪辣非道に笑い、早口で喋り過ぎて息を整えているDr.インディゴに自らの手で新しく淹れた緑茶を差し出し、それを飲み干し話を再開させるDr.インディゴ。

「本来なら刀身が透明になるだけでは済む筈がありません。・・・それでだけで済んでいるのは彼女が卓越した剣術と覇気を習得しているからだと思われます。尤も当の本人はそんな事、露程も考えた事無いでしょうが」 

「・・・ではやはりあれこそが妖刀『空亡』だと言う事か、Dr.インディゴ?」 

 ・・・そうそれこそが金獅子のシキが自らの本拠地にナズナを呼んだ真の理由だ。

 ナズナが恐らく光月おでんと同じくワノ国出身であると思われると酒の対価に『白ひげ』エドワード・ニューゲートから聞いた事があるシキはそこからありとあらゆる伝手を辿り、妖刀『空亡』についての伝説に辿り着いた。

 ────流動する武装色の覇気である『流桜』では無く、覇王色を持っているいない問わず、覇王色を無理やり引き出してまう妖刀がワノ国に存在する。

 ────その妖刀『空亡』はナズナと思わしき人物がワノ国を出国したタイミンングで行方知らずになったと言われている。

「いえ、恐らくはそれと同じ方法で鍛えられた刀であると思われます。しかし、どのデータにもあの刀の材質はありませんでした・・・推測ですが、妖刀『空亡』と同じく伝説の金属『ヒヒイロカネ』が使われていると思われます」

「ジハハ、ジッハハハハハ!」

 それを聞いて高笑いを浮かべる金獅子のシキ。

「其れさえ分かれば十分だ!──良かろう!計画は二年後だ!」

 金獅子のシキの計画の全貌が明かされるのは彼の宣言通りの二年後であり、今はまだその現状を知る者は居ない。

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「───って事が二年前にあってのぉ。恐らく、それが理由で儂は指名手配されたと思われるんじゃあよぉ」

 酒に酔っ払いながら、ナズナは自らが属している麦わらの一味とその麦わらの一味と同盟関係にあるハートの海賊団。

 その他に居る協力者であるテツカブラの鬼塚カブラとラギアクルスのエクレール・クルス、討ち入り準備をしているワノ国の侍達にそう愚痴る。 

 今ナズナ達は最強生物と呼び声高い、百獣海賊団提督カイドウが居る鬼ヶ島への討ち入り準備をしている。

 しかし、偶には気を抜いて精神を休ませる事も大切だと言うカブラの提案により、今は酒盛りをしていたのだが・・・久方振りのワノ国の酒に酔い痴れたナズナか質問があるかとその場に居た面々に聞いた。

 それに対し世界の歌姫であるウタが何故ナズナが指名手配になったのかと言う質問し、この話が始まった。

 ・・・話のスケールに言葉が出ないその場の面々を余所に、金獅子のシキについての愚痴をこぼしまくるナズナであった。

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