古いキーホルダー
※5号×スレッタの専用スレで出ていたネタ。なんやかんやでスレッタがペイルに捕まって実験受けてて、怪しまれないようにスレッタ顔の強化人士が学校に送られてる。
キーホルダー失くした!罪悪感から言い出せなかったと告げるスレッタ。
呆れたり怒ったりしながらも、別にいいわよ。と許してくれるミオリネ。
後日、新しいキーホルダーを一緒につけることに。
クール君を譲って欲しいと言うスレッタ。「ミオリネさんとの思い出が手元に欲しい」と言う。
出張とかに行ってる時、1人だと寂しいから、その寂しさを埋めるためにもキーホルダーが欲しいようだ。
渋々了承される。喜ぶスレッタ。
っていうシーン挟んでからの↓
暗い部屋で疲弊した表情の少女が1人。実験服のようなものを着ていた。
少女はぼうっとモニターを眺めている。画面には、仲睦まじ気に話す2人の少女が映っていた。
後ろから少年が現れ、声をかける。
「あーあ、キーホルダーも盗られちゃった。ひどいね。君達2人にとってとても大切なものだった筈なのに。」
「君は彼女をとても大切に思っているのに。守るって言ってくれたのに。顔と声が同じなだけで、別人になっていても気づいてくれないんだ。」
はらはらと涙を流す少女。けれど少女は、小さく首を振った。
「仕方ない……です。ミオリネさんも、皆も、悪くありません。」
少年はその言葉を聞くと、優しく微笑んだ。
「そっか。こんな目にあってもまだ彼らが好きなんだ。君は優しいんだね。……でも。」
「それで君の罪はなくならない。僕は絶対に許さない。同じ目にあって、それを許容して。そうして“どうしようもないこと”だって割り切ろうとしたんだろう?彼女達が君が違うことに気づかないのも。」
少年は、少女の耳元に顔を寄せる。そして突きつけるように囁いた。
「君が、僕が別人だと気づかなかったことも。」
声が段々と低いものに変わっていく。その声は、どこかかつての”彼”を思わせるものだった。
「でもね、君が今、どれだけ辛い思いをしてようと、その辛さを受け入れ、許したとしても。」
「同じじゃない。許されない。君は僕とは違う。だって、」
「君はなんでも持ってた。家族も、夢も、希望も、仲間も。そばに居てくれる婚約者だって。……僕には何もなかった。それでも、最後に一つだけ、たった一つだけ、得られたはずだった。」
「スレッタ•マーキュリー。君との思い出は、僕が得られた唯一のものだった。でも、それは消えてしまった。他ならぬ君自身によって。君が忘れたんだ。なかったことにしたんだ。」
「信じてたのに。裏切り者。」
冷め切った声が、少女に突き刺さる。少女はぶるぶると震え大粒の涙を流していた。
「……ぃあ、ごめん、なさい。ごめなさい、ごめなさい。エランさん……。」
ただひたすらに謝罪を繰り返す少女の濡れた頬を、少年は不気味な程に優しく拭った。
「いいんだよ。“仕方ないこと”だ。そんなに悲しまないで?ほら、今日は君にプレゼントを持ってきたんだ。」
「プレゼント……?」
「うん。君もいつも1人じゃ寂しいと思って。譲って貰ったんだ。」
はい、と少年はポケットから取り出したものを少女に手渡した。
青い体をした、間の抜けたデザインのキーホルダー。短い年月の中で、どんな時でも手持ちの物につけてあったのだろう。少女が知っているものよりもかなりボロボロになっていた。
「あ……。」
モニターに映っている映像。楽し気に話す2人の少女。
鞄につけられた、見たことのないキーホルダー。
変わった。変えられてしまった。
見てもらえない、気づいてもらえない、きっとこのまま。
「あああああああああああっ!」
押し込めていたはずの動揺、悲しみ、無力感……それらが一気溢れ出す。とめどない絶望感の中で、少女は気づいた。
『譲って貰ったんだ。』
譲って貰った、誰に?決まっている。このキーホルダーを持ち主から手渡されていた人物。画面の中で笑う赤髪の少女。自分と同じ顔の……
「話、したんですか……?」
「ん?」
「あの“私”と、お話、したんですか?」
「ああ、そうだね。彼女とは一応仕事仲間だからっ!?」
その言葉を聞くや否や少女は少年に抱きつく。突然のことに少年は動揺しながらも、しっかり少女を抱きとめた。
「いやです。」
「嫌?」
「エランさん、とられちゃうのいやです。」
「気づいてもらえないの、しょうがない、です。でも、でも……、誰にも見てもらえないの、怖いです。」
少女は少年の胸の中で、再び涙を流す。
「ごめんなさい、ごめんなさい……!私はエランさんを忘れたのに!傷つけたのに!!」
「……。」
少年は、安心させるようにそっと少女の頭を撫でた。
「本当に身勝手だね?君は“僕”を一人ぼっちにしたのに、自分がそうなるのは嫌なんだ?」
少女は啜り泣きながら、少年を抱きしめる力を強めた。少年はクスクスとどこか楽しそうに笑った。
「安心して?スレッタ・マーキュリー。僕はあいつには興味ないよ。僕が知りたいと思ったのも、鬱陶しいと思うのも、愛しく思うのも、憎らしく思うのも、君だけだ。全部君だけだよ。だから」
「君もこれからは僕を、“エラン•ケレス”のことだけを思っていて?」
モニターだけが光る部屋の中。薄くできた二つの影がゆっくりと重なった。
床には、古びた青いキーホルダーが転がっていた。