受け継がれる遺志
「コラさん!ごめん!!」
燃える工房に帰ったコラさんに、帽子が吹き飛ぶ勢いで頭を下げる。
謝りたいことがいくつもあった。
ほんの少しだけでも、おれを救うための冒険を疑ってしまったこと。
本当はもう、自分の病が治るなんて思っていなかったこと。
この温かで優しい夢の中でコラさんと、姉様と、ゲールマン…お爺様と、ずっと暮らせればいいと考えてしまったこと。
伝えたいことがたくさんあった。
おれと旅をしてくれて、本当は嬉しかったこと。
いっしょに過ごす毎日に、誰かを想う心を思い出せたこと。
この不思議な夢の中で、新しい家族ができたと胸を張って言えること。
そして、なによりも。
「ずっとおれを、諦めないでいてくれて、ありがとう゛!!」
俯いた瞳から雫がぼろぼろこぼれ落ちていく。
涙で顔はぐしゃぐしゃだけど、きっとコラさんだって似たようなものだ。
ずっと下げっぱなしの頭をあの大きな手で撫でられながら、少しだけ笑った。
「ロー」
この狩人の夢の月みたいな、静かな声が降ってくる。
「夢はあるか?」
「き、急になんだよ!おれがせっかく…」
コラさんは、何も言わなかった。
「…おれは、医者になりたい」
これも、夢の中で見つけた答えの一つだった。
「父様やお爺様みたいな立派な医者になりたい。それで今度はおれが、病気の人たちを治すんだ!」
「……なら次は、この夢からも自由にならないとな」
それだけ言って、優しい手のひらが離れていく。
すぐに戻ると向けられた背中は、いつもと変わらず大きく見えた。