取引内容
「レストランのメニューの、監修…?」
「正確には、メニューとそのレシピをだな
私は今、世界最大のエンターテイメント客船を建造している
その船内レストランで提供するメニュー、そしてそのレシピをゼフ、君に監修してもらいたい」
以前からの課題だった、グラン・セーニョ号の規模拡大に伴う船内レストランのメニューのレパートリーを増やすという案について
代り映えしないその品書きに一石を投じるためそれまでのものとは毛色の違うものを用意したいと考え、その案を出せる料理人を探していた
そしてこのゼフであれば、コックにして海賊船長という異色の経歴、今見せてもらった高い調理の腕、そして今回の事故による壮絶な経験
私の求める条件にきっちりと嵌っている
彼であれば、私の求める新メニューの案を出してくれるのでは、と
そう考えたため、ここまで回りくどいことをしてきたのだ
私の出した条件を聞いたゼフは、どこか呆れているような表情でため息をついた
「…料理の腕を見せろっつぅ時点でなんとなく察していたが…
てめェ、本当にそんなことのためだけにこんなめんどくせぇことやってたのか?」
「…まぁ言いたいことは分かる、いままで言わなかったのも今の君の心中が大きな理由だ
とはいえ、私自身これはそれなりに大きな問題でね
この程度の労力を割くには十分だとも」
「おれとしちゃ、どっかを襲えとか誰かを殺せ、なんて言われれると思ってたんだがな…」
「私は君を海賊としてではなく、料理人として欲しているんだ
そんなもったいない使い方出来るわけないだろう?」
「…フン、まぁ、素直に誉め言葉として受け取っておいてやる」
「結構」
ドカリ、と
ゼフが私の向かいの椅子に座る
我々が話し始めたのを見て居心地の悪さを再認識したの、サンジ君は少し離れたところにある別の机でお代わりを食べ始めた
それでも、こちらの話しが気になるのか時折こちらをチラリと見てくる
「…でだ、態々こんな溜めたんだ
一つや二つ出せばいい、て訳じゃねぇだろ?」
「当然だとも、君には200種類のメニューを考えてもらいたい
期間はそうだな、2ヵ月と言ったところか」
「に、200!?それも3ヵ月で!?」
サンジ君が私の発言に驚きの声を上げる
しかしゼフに一睨みされると、途端におとなしくなった
「…他には?」
「基本調理法に制限はない
が、200の内半数は富裕層向けの高級志向、もう半分は一般向けのリーズナブルなメニューで頼む
それぞれ1割はデザートで占めるように、
それと、特殊な素材を使ったものはNG、あくまで普遍的な食材を使用してくれ
基本はこの程度だな」
「お、おいおっさん、それじゃいくら何でも無理が…!?」
サンジ君が再び、私の出した条件に声を上げる
まぁ、はたから聞いていればその反応も当然、私自身なかなかにシビアなものだと思っている
が、今度のゼフは彼に睨みを利かせるわけでもなく、徐に立ち上がった
そしてそのままサンジ君の横に立つと、義足を付けたばかりの右足を大きく振りかぶり、そのまま突然のことに反応できず立ち尽くすサンジ君の脳天に一撃を食らわせた
「…!⁉?いっ、てぇ~~~~~!!!⁉???」
「チビナスが、大人の話にしゃしゃり出てくんじゃねぇ!」
よほどの衝撃だったのだろう、サンジ君は頭を押さえて床をのたうち回っている
…あれが伝説の赫足か、子ども相手によくやるものだ
ゼフは未だ苦しむサンジ君を一瞥したのち、改めて椅子に座りなおした
「…で、要件はそれだけか?」
「あぁ、今のところはな
メニュー作りにはこの部屋を貸そう、好きに使うと良い
私はいったんこの島を離れるが、地元の市場には話を通してある、食材の調達は心配しなくていい
もちろん、逃亡は厳禁だ」
彼も海賊、万が一のこともある
その場合を考え、部屋の外には隔離病棟にいた兵士たちをそのまま配備しており、今も監視体制は緩めていない
まぁ、何よりそんなことは彼の矜持が許さないだろうがな
「…さて、この話、引き受けてくれるかな、ゼフ?」
「…何が引き受けてくれるか、だ
先に受けると言わされちまってんのに、今更だろうがよ」
「…フッ、まぁ、だろうな」
まあ先に言質を取ったのは、私の出した要件に対し彼が嘗められていると捉えて逆上するのを防ぐのが目的だったわけだが
少し考えるそぶりを見せたのち、意を決したような表情で左手を突き出してきた
構図としては、昼間の契約締結の時とほぼ同じだ
「いいぜ、元から断れる話じゃねぇんだ
作ってやる、200種類のレシピ、2ヵ月でな」
「楽しみにしているとも」
私は彼の返答に、昼のように薄く笑みを浮かべてその手を取った