『オカマにて』
「ン〜フッフッフ!ヴァナタが例のウタガール…子供もいたとは驚いたっチャブル!」
目の前に現れたその…男…いや女………なんだろう。
とにかくやばいやつ相手につい後ろに下がってしまう。
「…あ、あんた誰…?」
子供を隠すように抱きかかえる。
…なんでこの子はあれを見て元気に笑ってるんだ。
「そう警戒しなくていいわ。ヴァターシはこれでも味方なんだから!」
「……信じられない。」
いきなり降ってきた…その…オカマが味方など、流石に信じろという方が無理だ。
「あら心外…そんな冷たさ、こっちも挫け…挫け…」
「挫けなーい!!!ヒ~ハ〜!!!」
「挫けねーのかよ!」
「一本取られたよ!」
「なんなのよあんた!!」
ついツッコみを入れてしまう。
これで爆笑するこの子は大丈夫だろうか。
…待て、今の合いの手は誰だ。
そう思って横を見れば、いつの間にか海軍の軍艦が迫っていた。
「……!海ぐっ」
「海軍じゃないわ?」
すぐに否定される。
…よく見れば、軍艦から顔を出してるのは海兵じゃない。
……海兵ではないが…なんだあの集団。
「すげー!生きてたぞ!」
「子供もいるじゃねえか!」
「麦わらもいんのかー?」
……なんだあの集団???
「ウタ、どうし…なんだお前!?」
ルフィが外に飛び出てきた。
すぐに私とオカマの間に立ち塞がってくれる。
「ウタ、お前先に中に…!」
…ルフィの声は、かき消された。…軍艦からの歓声で。
「麦わらだ!麦わらのルフィだぞー!」
「ほんとに生きてやがった!」
「あれがあの子供のパパか!」
「おおおおおおお!」
「……なんだあいつら?」
「さ、さぁ……。」
はっきり言って私にも分からない。
「ン〜〜フフ…失礼したわね麦わらボーイ。」
目の前のオカマがそう言って笑う。
「ヴァターシのキャンディ達はみんなヴァナタ達のファンなの。」
「ファン?なんだそりゃ?」
「ヴァターシ達はみんな牢獄の中でヴァナタ達の活躍を耳にしていたわ。敵といえどあっぱれだったっチャブル!」
「牢獄…?敵…!?」
浮かび上がった疑問は、後ろの声が答えた。
「エンポリオ・イワンコフだな。」
船から騒ぎを聞きつけたローが言う。
「あら、ヴァナタほどの海賊にも知られてチャブルね…?」
「…なるほど、だいたい読めた。」
一人納得するローを横に、私はさっきの名を頭の中で反復させていた。
「イワンコフ…あの革命軍の…!?」
あのインペルダウンに投獄されていたにも関わらず、
数ヶ月前囚人達を解放し脱獄したという幹部の一人。
それが目の前に現れたというのか。
「おい、お前何しに来た!」
ルフィが敵意を剥き出しにしながら睨む。
私もいつまでも考えている場合じゃない。
この子を守らなければならないのだ。
しっかり腕の中に抱きながら、目の前の巨体を睨みつけた。
「………ン〜フフフ……!」
突如、イワンコフが笑い出した。
「な、何がおかしいの!」
「いえ…なんでもないっチャブル。」
「……!?」
わけがわからない。何を考えてるんだこのオカマは。
「安心してちょうだい。別にヴァナタ達を殺すつもりはないわ。むしろ助けに来たと言うべきね。」
…助ける?革命軍が?私達を?
「…なんで…」
「お前ら、自分のやったことを考えてみろ。」
後ろでローがため息をつく。
「お前らは天竜人に牙を向いたんだ。あの件で政府の信用も大きく揺らいだ…革命軍からすりゃこの上ない神輿だろう。」
…言われてみれば確かにそうだ。
政府を打倒しようとする革命軍からすれば、天竜人を殴り飛ばしたルフィは
革命の象徴になりうるのだ。
「……ルフィ…。」
思わずルフィを見てしまうが、その目を見て安心してしまった。
そうだ、ルフィはそれで喜ぶ人間じゃない。
「おれもウタも神輿なんかじゃねえ!いやだ!」
そうはっきりと告げれば、目の前のイワンコフがまた笑った。
「フフフ…ヴァターシ達が見込んだだけはある男っチャブル!」
笑みを浮かべたままイワンコフが続けた。
「確かにそれもあるでしょうけど…革命軍にももっと深い情もあるっチャブルよ麦わらボーイ…。」
そう言って、イワンコフが背を向けた。
「…もうすぐここに艦が来るわ。そこの彼がヴァナタ達の情報を得た本艦がねェ。」
「得させたの間違いだろう…より確実な手当てが出来るおれ達が先にくるよう仕向けさせられたわけだ」
その話に驚愕する。
ロー達があの場に来れたのも、革命軍が関わっていたのか。
「ン〜フフ…どうするのかしら?」
「…どうする、ルフィ…?」
「………………。」
断れば、もしかしたらローにも迷惑をかけることになるかもしれない。
かと言って信用できるかも分からない。
果たしてどうするべきか…。
「……送る約束なんでな。おれ達もそばに控えさせてもらうぞ。」
後ろからローがそう答えた。
「トラ男…?」
「わざわざここまでするってことはあっちも訳ありだろう…会ってみてもいいんじゃないか?」
そうローが言う。
「安心しろ、万が一のときはすぐに潜水してやる…患者の面倒は最後まで見てやるよ。」
「ンフフ、義理堅いわねヴァナタも。」
…どうやら道はそれしかないらしい。
「…分かった。でももしウタと子供になんかしたら…!」
「安心なさい。万に一つもありはしないっチャブル。」
どの道革命軍まで敵に回すのは今はまずい。
とにかく、水性線に見え始めた黒い竜を待つことになった。