「反撃」
※戦いまでもう少し!ifローさんの心の話、分かりにくかったらごめんなさい。ほぼifローさんの一人語りですが深層心理として幼いローさんに登場してもらってます。
“俺”=ifロー 俺=深層心理ローです
キャラ崩壊注意!誤字脱字勘弁してください
身体が重い……少し気を抜けば動くのが億劫になるほど“俺”は疲れていた
あの日ドフラミンゴの犬になると誓ったその日のうちにドフラミンゴは俺をシーザーの元へ連れて行って狼の手足と耳、尻尾を準備させた。手術自体はモネを鳥人間にした時と同じ簡単なものだがいざ自分に行うとなるとそれは激しい苦痛を伴うものだった。
「うぐっうあああああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙」
汚い絶叫を上げながら体のパーツを1つ1つ入れ替えていく。その度に自分の中の人間の部分が消え去っていくようでクラクラした。左手も入れ替えドフラミンゴの足元に伏せると奴は満足そうに俺の頭を撫で海楼石の首輪を外した。それからは一度も付けられてはいない
そう今の俺は重たい首輪もなければ拷問を受けて傷だらけな訳でもない、狼の足には傷もなく己の体重をしっかりと支え四足歩行の体制を取れば獣のスピードで動くことも可能にしていた。なら何故こんなにも身体が重いのかそれは単に心の問題だ
ドフラミンゴが犬である俺に最初に出した命令は使用人を1人殺すことだった
「おい……ここに立て」
ドフラミンゴが呼びつけたのは若い女の子でその子は連れ戻された日、死体に怯えながらも此方を気遣わしげに見ていた子だった
「そこから動くな。……ローこいつを殺れ」
「えっ?」
下された命令に女の子が目を丸くする。それはそうだろういきなり死ねと言われたのだから
「俺はローの覚悟が知りたい。だが戦闘訓練をしたい訳じゃねぇ。だからお前が逃げたり抵抗する必要は無い。何もせずそこに立ってローに殺されろ。わかったな?」
ドフラミンゴが女の子にさらに残酷に言葉を重ねる。女の子は俯いてしまった。きっと怯えているのだろう……そう思ったのに顔を上げてこちらを見た女の子の目は変わらず気遣いの色を俺に向けていた
“俺はそんな彼女の首を撥ねた”
その後も俺はあいつに命じられるまま色々なことをした。その爪に沢山の血を付けて……奴が世界中お前を探してるから顔をかくせた方がいいだろうと寄越してきた割れたハクガンの仮面もすっかり穢れてしまった
そんな生活を続けて数週、心が悲鳴を上げ始めたのだ。幸いにも今はドフラミンゴは居ない。ペット用にと奴が用意したクッションの中に丸まり1人思案する
(俺の心はいつの間にこんなに脆くなってしまったんだろう。1年間ずっと耐えれていたのに………せめてあいつらに会わなければ……この幸せな思い出がなければここまで苦しくはなかったのに……)
せり上ってくるもう1つの世界での思い出を涙とともに飲み込む。このまま溶けて消えてくれれば少しは辛くなくなるのだろうか。そんな馬鹿なことを思いながら身体を休めるため目を閉じた
(ここ何処だ?)
次に目を開けたのは本棚が立ち並ぶ真っ白な部屋だった。
(ドフラミンゴの城にこんな部屋は無かったはず……夢でも見てるのか?)
そう思いながら本棚の本を見る。真っ白な本、焦げた本、雪のように冷たく湿った本、血で汚れた本、そして沢山の黒く塗りつぶされた本…そこには大きさも形もバラバラな様々な本が並んでいて……それが俺の記憶だと唐突に理解した
『よう“俺”』
ふと後ろから声がかかる。振り返れば幼い姿の自分がそこに立っていた
『どうだ?自分の記憶の本棚を見た感想は』
「随分……黒塗りなんかの本が多いな……読めやしない」
『そりゃそうだ』
幼い俺が鼻で笑う。我ながらムカつくな
『だってその本たちは“俺”が塗り潰したんだろ?思い出さないように』
「そんな思い出したくない記憶なら燃やすか捨ててくれりゃあいいのに、気が利かねぇな」
『そんなの無理だ。俺は“俺”の心の存在、深層心理だからな。“俺”が忘れた記憶も全て覚えておくのが俺の仕事だ。燃やしたきゃ自分でするんだな。』
そう言って深層心理だと名乗った俺はライターを投げて寄越す。いつの間にか腕は人間の物に戻っていて難なく受け取ることが出来た。どうせ黒く塗りつぶすほど思い出したくない要らない記憶なんだ処分してしまえばいい。そう思い本を手に取ったところで何故か涙が溢れた……
「は?」
突如溢れてきたそれに困惑する
「おい何だこれは」
『さぁ、消したくないんじゃないか?』
「お前は“俺”の心なんだろ?なら気持ちだってわかるんじゃないのか?」
『深層心理は無意識の存在、意識して考えるのは“俺”の仕事だ』
「チッ」
舌打ちしながら本を戻す。他にこの場で出来ることはなんだ……回りを見渡してみる……その時、悪魔の様な考えが浮かんでしまった
(俺は自分を何だと言った?“俺”の心……その中の無意識の存在……なら、それを消せば“俺”の心は“俺”自身が考えない限り出てこなくなる。勝手に湧き上がってこようとする涙や思い出ともおさらばできる?)
唾を飲み込み俺を見る。幼くて小さい、今の俺でも問題なく殺せそうだ………手に持っていたライターはいつの間にかメスに変わっていた
「おい、俺」
『ん?何するか決まったのか?』
警戒心無く俺が振り向く。その小さな身体に体当たりするように転ばし馬乗りになる。メスを振り上げ突き刺そうとした所で誰かがそのメスを握った。“俺”より少し小さいが日に焼けた健康そうな手……幾度となく目の前で繰り出されるのを見た懐かしい拳だった
「なんで止めるんだ…………麦わら屋」
そんな事は有り得ない……もう居ないはずの同盟相手がそこには居た。これも俺の心が作った幻だろうか……それでも手から垂れる血がいやにリアルでメスを持った手が震える
「だって……お前すげぇ痛そうな顔してるぞトラ男」
その言葉にコラさんを刺した時のことが蘇る。痛いのはお前だったよなと泣いていたあの人の声が……顔が……
「お前、何してぇんだ?」
「えっ?」
麦わら屋が静かに尋ねてくる。何したいって“俺”は、俺を殺したくて……
「其奴を殺したらお前は楽になんのか?」
「そう…だ此奴が要らないことまで覚えてるから俺は……」
「覚えてたらいけねぇのか?」
(何が言いたいんだ麦わら屋は)
自分の空想であるはずなのに全く意図の読めない質問を繰り返す麦わら屋に困惑する
「この思い出はそんなに嫌なんだな?」
麦わら屋が手を伸ばして黒塗りの本を1冊取る。開かれたそれはアルバムのようだった。思い出したくない記憶のようだからどうせドフラミンゴだろうとおもったが……写っていたのは……俺のクルー達だった。何かしたのか謝っているベポ、バカ騒ぎするシャチとそれを怒るペンギン……航海をしていた頃の日常の風景がそこに写っていた
「違っそれは……」
「じゃあなんで塗りつぶしたりすんだよ」
「それは……それを思い出したら……ドフラミンゴの忠犬になれないから……」
「あんな奴の忠犬になって楽しいのか?」
「楽しいわけないだろ!!!でも……そうしなけりゃ……あっちの世界の皆まで殺される。“俺”が死んでも同じだ。やつは余計狂って何もかもを壊すだろう。“俺”が……“俺”が……ここで食い止めないと……」
「じゃあお前は……此奴らの“せい”で死にたくても死ねねぇんだな?」
「えっ?」
「異世界の此奴が居るから、死にてぇくらい辛いのに生きてんだな?」
「違っ」
異世界の皆の“せい”で?違う彼奴らは良い奴で……“俺”は彼奴らを守りたくて……彼奴らに生きていて欲しくて……
「もう一度聞くぞ!お前は何がしてぇんだ!なんの為に生きてんだよ“トラ男”!!!」
麦わら屋が胸倉を掴んで引き寄せてくるその表情は怒っているのにどこか悲しそうだ
「“俺”……“俺”は……」
「はっきり言え!“トラ男”!どんな夢だろうと“俺たち”が絶対叶えてやる!だから願え!」
(本当に願って良いのか?……なら“俺”は…………)
「“俺”は……彼奴らともっともっと旅がしてぇ……もっと自由に色んなとこに行きてえ!」
半ばヤケクソのように叫ぶ。半泣きでやりたいことを叫ぶなんてまるで餓鬼だ
「しししっ言ったな。じゃあミンゴをぶっ飛ばそう!」
それなのに“俺”よりも歳下のはずのこいつはそれをことも無さげに笑うんだ
「簡単に言うが1度負けてるんだぞ!」
「なんだよだからって諦めんのかよ?それに2度は負けねぇ!俺が勝つ!」
頬を膨らまして拗ねたように言う麦わら屋につい笑いが零れる
「もうすぐ“俺達”が助けに来る。だから諦めんな“ロー”」
「なんだよちゃんと覚えてんじゃねぇか。全く人の心の中までズカズカ入り込んでそんなこと言いに来るなんてデリカシーってもんがが無ぇのか……ルフィ……」
「なはははいいじゃねぇか友達なんだし」
「あぁ……」
本当に何処までも変わらないやつだよお前は……
『ここにある思い出も、彼奴らから貰った愛も全部俺が守っといてやるよ』
いつの間にか俺の下から抜け出していた小さな俺がニッと笑う
『だから思う存分暴れて来い!それでちゃんと取り返しに来いよ“俺”!』
「あぁ!」
笑い返し心の中を後にする。クッションから起こした身体は嘘のように軽くなっていた。
さぁ反撃開始だ!