双極で二人が出会う話
「…さあ」
「立つんだ。朽木ルキア」
酷く場違いな、柔らかな声が響く。
恋次。一護。
皆やられてしまった。
私を助けた人はもう居ない。
身体が動かない。
動けない。
目の間の現実を、真実だと受け入れられない───
瞬間。
白い隊長羽織が、双極にはためいた。
───この場に三人も隊長が居たのに、それが鮮烈に目に焼き付いたのは。
背中に刻まれた【五】の文字と。
あの飄々とした彼が、ソレを背負っていたからだ。
「───随分と早いね『副隊長』」
「せめて引き継ぎくらいはしてくださいよ、藍染さん」
「尸魂界には悔恨が無いものでね。
それに、放っておいても君ならば隊を纏められるだろう
偶には大量の仕事に揉まれたらどうだい?」
「嫌ですね、そういうのは藍染さんにやってもらいます」
とても大逆の罪人との会話は思えない、軽い会話。
もしや『平子副隊長』も、藍染の一味なのではないか───
そう考えた矢先、藍染が口を開いた。
「───一体いつから、私の偽装に気がついた?
君は間違いなく、鏡花水月の支配下にあった筈だ。
完璧な死体を一体どうして見破った?」
「見破るなんて大層な事じゃありません。
俺が目を覚まして、寝かされた貴方の死体を見た時───
俺は間違いなく『藍染隊長は死んだ』と感じました」
「…成程」
「簡単な事ですよ。
冷静になって考えたんです。
『藍染隊長は旅禍や他の隊長に殺されるような実力ではない』と。
心はあなたの死を悲しんでいましたが、理性はあなたの死を信じては居なかった…
お陰で俺は今、ここに居ます」
「…少なくとも他隊長と並ぶくらいには、実力を抑えていたと思うんだけどね。
いつから疑っていた?」
その言葉に、平子副隊長の口が吊り上がる。
「『あなたがお母さんの子宮の中に居たときから』ですよ、『藍染副隊長』」
ぴくり、と藍染の上瞼が動き。
平子副隊長が抜刀した。
「───良いだろう、副隊長。
その慧眼に免じて…君を相手しよう」
やや遅れて、藍染隊長が刀を抜く。
死地とは思えない、弛緩した空気で。
ふ、と藍染の姿が消えた。