友達以上恋人未満なアカネちゃん
CWSD「お待たせー!」
ある昼下がり。
一人の少年がコガネジムの入り口で待っていると、中からアカネの声が聞こえた。
名前と同じ色の髪を二つ結びにした少女は、見かけによらずコガネジムのジムリーダーを務めている。
だが、今日はジムも午後はお休みだ。
「中で待っててもよかったのに」
と、アカネが首を傾げる。
ふと、少年がジムの方へ目を向ければ、こちらを覗き見るジムトレーナー達の姿が見えた。
コガネジムのトレーナーは全員女子だ。中で男一人が待っていれば絶対にからかわれるだろう。
「まぁええわ。行こか」
それでも、彼と過ごす時間が楽しみなのか、アカネは笑顔で彼の手を引いた。
少年とアカネはコガネシティで生まれた幼馴染だ。
昔はよく二人で遊んでいたのだが、親の転勤で少年はカントーへ引っ越すことになってしまった。
それからリニアが開通したことでヤマブキとコガネがつながり、少年も気軽にコガネへ戻ってくることが出来るようになった。
「久々のコガネやろ? ウチがいろいろ案内したる!」
再会したときはわんわん泣かれたが、今ではとても嬉しそうなアカネに少年も笑みがこぼれる。
たった数年。離れているうちにアカネはすっかり有名人になってしまった。
周囲が始めたという理由でポケモントレーナーになり、気づけばジムリーダーを任されるようにまで成長した。
外見も、「ダイナマイトプリティギャル」の異名が似合うほど可愛く、身体も大きくなった。
「ここがコガネ百貨店で……んー? 聞いとるかー?」
アカネに見惚れていると、ぷうっとプリンのように顔を膨らませてきた。
慌てて少年は謝り、ちゃんと話を聞いていると返す。
「ホンマかー? ならええわ!」
見た目は成長したが、中身は昔と変わらない。
感情表現豊かで、泣き虫で、一生懸命な女の子だ。
「あらあら、アカネちゃん。今日はデート?」
百貨店に入ろうとした時、すれ違いざまに主婦達が声をかけてくる。
「あ、彼が噂の?」
「よかったわねぇ」
ニマニマとこちらを見てくる主婦達に、アカネはボッと顔を真っ赤にした。
「ま、まだそういうんやないから! 余計な事言わんといてーな!」
どうやら、あのアカネと一緒にいる男子ということですっかりコガネ中の噂にされてしまったようだ。
アカネは紅くなったまま少年の手を引いてすたすたと百貨店に入っていく。
「き、気にしなくてええからな! あんなの!」
本人が一番気にしてるのでは?
少年は思ったことを口にせず、頷くのみにした。
周囲の人間が二人の光景を微笑ましく見られているとは知らずに、二人のデートは続く。