参観日

参観日


―――― 霊術院の特進クラスは今日、独特の緊張感を持っていた。

今日は半年に1度、院の三〜六回生特進クラスに護廷十三隊の隊長何名かが視察に来る日だ。

ここで実力が認められ、教官から普段の成績などを聞いて、たまたまではなく安定した実力であると判断されれば入隊試験免除やそうでなくともいくつがある入隊試験の項目スキップなどが認められることもある。と言ってもそれも滅多にあることではないが、チャンスであることに変わりはない―――。


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―――「しかしまあ自分で言うのもなんだがよく俺達が視察に選ばれたよなぁ」

「お目付け役が爺さんのお墨付きだからな」

「あらあら、そんなことを気にしなくても貴方がたは仕事に関しては贔屓目は入れないでしょうに」

「そうそう。そこは僕らも心配してないよ」


こちらは視察する側の会話である。

 今回の視察メンバーは、羅武、拳西、卯ノ花、京楽。

羅武の先ほどの言葉は五回生に◯◯、三回生に修兵と、それぞれの『息子』がいるからだ。このあたりは瀞霊廷に広く知られているから選ばれないだろうと思っていたのだが、人を見る目において山本総隊長が絶対の信を置く京楽と、護廷十三隊最古参の卯ノ花を目付け役にあえて父二人を選んだのは、ひょっとすると力が足りない状態で入隊させればつらい思いをするのは子供達の方だから直接見て、自分の隊の隊務に適正がないようなら、本人達が希望を出してから断るのではなく早めに他隊を薦めてやれということなのかもしれない。


そのあたりの山本の真意は正確には判りかねるが。

「修兵はまだ三回生で実際はまだ少し時間があるが◯◯の方はすぐだな」

「まあな。特進クラス維持してる時点で試験に落ちる心配はあんましてねぇんだけどよ…」



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―――― 滅多にない機会を最大限に活かすため、ちょうど視察の隊長も四人ということもあって三〜六回生、それぞれ学年ごとに同じクラスの者と勝ち抜き戦をして(鬼道も使用可)それぞれの学年で最後まで勝ち抜くと、隊長に手合わせをしてもらえる、という特別授業となった。

勝ち抜き戦自体も見取り稽古もかけるため、四学年の特進クラスの生徒が一堂に会している。それなりの人数だが、少し距離のある位置からでも修兵はすぐに◯◯を見つけた。

(あ、◯◯兄、緊張してる。……でも俺もだから一緒かぁ。)


 当然ながら学年の平均的な力はより深く学び訓練している六回生がいちばん洗練されているため、逆に三回生からスタートした。



「流石だな、修兵は」

「無理に六車君のスタイルを真似ようとしないところが懸命だね。基本スタイルは東仙くん仕込みかな?」

「ああ、最初は俺と同じがいいって言ってたが体格が違いすぎるから駄々こねることもなく済んだ。子供の頃から死神になりてぇって言ってたぶん、院を受験する数年前から東仙と衞島が基本教えてたな。斬は東仙、東仙は目のことがある分、遠距離に鬼道を命中させるのは多少難があるからそこは衞島だったか」

「六車隊長は鬼道もお教えにはならなかったのですか?」

「俺も一応隊長だからな、一通りはできるが、……俺はどうもアイツを保護した時の印象が強くて、な…。」

まだ今よりも背も小さく子供の色を強く残した修兵に攻撃するのはためらいがあった。今ならばまた少しは違うだろうが。




――――「――――っ!だめね、降参するわ」

 修兵の相手をしていた女生徒が降参を宣言して三回生のトップが修兵に決まる。

まだそれほど息も乱しておらず正直学年の中では群を抜いているようだ。


ヒュ~ッ♪と羅武が軽く口笛を鳴らした。


「では檜佐木、どの隊長殿に手合わせをお願いするか決めなさい」

「はい」

教官に応えて、修兵が拳西たちの方を見る。

「あの…、六車隊長、よろしくお願いします!」


「………ああ、解った」


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 言うまでもないが院生が隊長の相手などまともに務まるわけがないため、これは勝ち負けなし。というよりも隊長に『急所を3度攻撃』されるまでにどれだけの時間耐えて、曲がりなりにも攻撃の手を返せるかを見るものだ。



始め!と号令がかかった瞬間、眼の前に居た拳西が瞬間の視界から消えた。

あっ、と思うと同時に、目が拳西を再び見つける前に反射で胸の前に斬魄刀を構えることで攻撃に備えた、とほぼ同時。

 白打の達人の拳西にとっては全く力など入れていない弱さだろうが、構えた斬魄刀越しに拳西の白打の威力を感じる。

 始解を会得していない修兵の斬魄刀は、霊圧が注ぎ込まれた分通常の日本刀よりはかなり強度を増してはいたがそんなもので防ぎきれるようなものではない。

 威力を逃すために自分でも後ろに飛のきながら、

「くっ、縛道の六十二、『百歩欄干』!」


 瞬歩で見失うようでは攻撃どころではない。とにかく一瞬でも拳西の動きを止めようと、威力不足を承知の上で縛道を放つ。

と、縛道の影響で止まったというよりは、拳西はあえて足を止めて、追撃してくるようなことはなくフッと微笑んだ。

「よくできたな。瞬歩は見失っちまったみてぇだが、見失ったあとの対応そのものはほぼ最善だ。威力は足りないが。こういう時に詠唱してる暇はねぇ。詠唱破棄で正解だ」

 修兵にも周りにも伝えるためにか拳西はわかりやすく言葉にした。

「じゃあ次、今度は止まらずに攻めるから、攻められてるところから攻撃に転じてみろ。威力は今はいいから」

「はい!!」



「……甘ぇなぁ拳西の奴」

「指導としては間違ってませんし、構わないと思いますよ。わざわざ途中で言葉にしてあげてるのは修兵くんだからでしょうけど、どちらにしろ他の者にも伝わったほうがいいことですから」

「………修兵くんは、もう少し訓練すれば入隊試験はいらないかもねぇ、楽しみだ」


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――――「あっ、ハッ、りがと、ござい、ましたっ!!」

「骨とかは絶対大丈夫なようにしたはずだが痣とかは…、卯ノ花さん!」

「承知しました。いらっしゃい檜佐木くん」


 治療のため呼ばれて隊長達があつまっているところに行くと、どうだった?と京楽に問われた修兵は息を落ち着かせながら応える。

「すごく勉強になりました。あとやっぱり、拳西さん強い!」

抱っこをせがんできた頃と同じく笑みで嬉しそうに言った―――。





 修兵が治療を終えて三回生の席に戻り特別授業の続きも再開された。

五回生の結果は―――。

「☓☓☓の勝ち抜き!」

「―――っ、」




「―――うーん惜しかったね◯◯くん」

「鬼道が苦手なようですね。今回もそれで最後に差が出ましたね」

◯◯は最後の2人まで残っていたが負けてしまい、隊長と手合わせわせすることはなかった。◯◯に勝った相手も京楽を指導の相手に使命したため羅武が他の生徒と戦うことにもならなかったが。


唇を噛み締めている姿に羅武は苦笑する。

元々◯◯が特進クラスでは『まあ上位』で収まってしまっているのは能力値に偏りがあるからだ。それなのにほぼ斬術だけでよくここまで勝ち残ったと思う。


卯ノ花が先ほどと同じく怪我の治療と称して◯◯を呼んだ。

「頑張ったな」

羅武よりも先に拳西が声をかけた。◯◯はそれを聞いた途端、一瞬何を言われたか考えるようにポカンとして、それからむず痒いような複雑な顔をした。

もう何十年か前のこととはいえ、拳西は◯◯が最初に『愛してほしい』と思った人だ。愛されてなかったわけじゃないことは知っていたけれど…

そんな◯◯の様子に喉を鳴らして羅武が笑ってから声をかける。

「マジでよくやったぜ、上等だ」

「けど、負けた」

「今はな。この先はお前の努力しだいだ。ただ、お前鬼道苦手ならオススメは十一番隊だな」

「……」

「乱菊だって十番隊行って、真子と違うところにいるだろ。まあ来年もあるしゆっくり決めろ」

「………解った」

「どっちにしろお前が頑張ってるのは解ったから、もしこの後誰かに、羅武(おれ)の養い子のくせにとか言われても堂々としてろ」

「…うん、」


 小さく返事をした◯◯は修兵のように子供っぽく笑うことはなくて、どちらがいいとかではなく性格の違いだなーと大人たちは思った―――。



 ◯◯も五回生の席に戻って六回生の手合わせも終わり、特別授業の終わりが教官から告げられると、拳西と修兵、羅武と◯◯は意図せず同時に大きく息を吐き、どこかにあった緊張を一緒に解いた、そんな1日だった―――。



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