厄介なことに、家族なのである

厄介なことに、家族なのである



※現パロ、スタンピード組が兄弟

※長女四男コンビが互いの服を選ぶのが可愛すぎて書いた

※ロー視点。可哀想なロー…ひとえにテメェがツンデレで面倒見が良いせいだが…。





――ああはなるまい。


1つ上の兄とその1つ上の姉を見ながら、おれは心の中で固く誓った。




休日であってもこの家の朝は忙しない。

家族全員の外出の用事が重なった、今日のような日は特に。


洗面台の奪い合い、

見つからないチケットの捜索、

食べ盛り達の朝食の支度。


車が無いガキ達の送迎希望時間と大人達の予定が噛み合わないと

土壇場で分かった時なんて最悪だ。

言った言わないの水掛け論から信用問題にまで発展していく。




「……ルフィが起きてねぇな」


クソ忙しい中でもかろうじてある身内への情けから互助精神を働かせ、

予定通りに動けていない家族のフォローをするのは

いつだって上から3番目の兄だ。


他の奴は気付いていても言わない。

自己責任論で自立を促す方針である。冷たい野郎共だ。

まあおれも下の弟達じゃなかったら気にもしねぇが。

スモーカーの兄貴、手が空いたらおれのチケットも一緒に探してくれねぇかな……。



「おいルッチ、ルフィを起こしてこい。おれは向こうの仲裁してくる」

「……分かった」


気付いて黙っていた冷たい野郎でも、普段から世話になってる人間の言葉には素直に従うらしい。

これが他の兄弟だったら聞こえないフリしてたろうな。

おれ達の部屋に行くついでにテメェの部屋に寄って羽織るもん取って来いよ。

たぶん寒いぞ寝間着のTシャツ1枚じゃ。寝ボケてんのか、珍しい。


「なあルッチ、ルフィ起こしたらチケット探すの手伝えよ」

「バギーかサボに言え。

 昨日の夜マギー玉ごっこでその辺りに突っ込んだのはそのバカ2人だ」

マジかよあのバカ2人! ……いや待て。


お前おれがここにチケット入れてたの知ってたよな?

見てたのか?

何で止めなかったんだ?

何で言わなかったんだ?

せめて昨日の内におれに伝えてくれてりゃ事前に探してたぞ?


互助云々とかいう次元じゃねぇ……なんて野郎だ、本当に同じ血が通ってんのか……?



あまりにもあんまりなその気質にTシャツの事も伝え忘れたまま、

呆然と兄である筈の冷血漢が出ていった扉を見つめた。

大丈夫なのかアイツ、あんな非協力的な性格で世間に出てやっていけるのか?


……無駄に能力は高いから問題なくやっけいけそうだな。




ふてぶてしく世間を渡っていく兄の未来像に遠い目をしてる場合ではない、捜索に戻らなくては。

子分達と充実した休日を過ごす予定を

バ家族共のせいで台無しにされてたまるかと己を鼓舞したところで、

ハンコックが扉の向こうから出てきた。



うわぁ。



紅一点と呼ぶよりこの家で一番偉い女と呼んだ方が正しい表現になるだろう。

既にその美貌は近隣一帯に知れ渡り一部では女帝とすら呼ばれている姉は、

人形のように愛らしいネグリジェ姿に、

ゴルゴンもかくやという不機嫌顔で部屋内を見回している。

このままだと進行方向にある物の名前を言い放ちながら鮮やかに蹴り飛ばしつつ歩きかねない。

慌てて周囲から物をどかしていく。


「……ロー、愚弟はどこじゃ?」


ハンコックが愚弟と呼ぶのは主にルッチと時々おれくらいだ。

なので恐らくルッチの事だろうが、この姉弟はすこぶる仲が悪い。

愚弟は去ねとは毎日のように聞いているが、

愚弟はどこじゃなど数ヶ月に一度あるかないかだ。


どうする? 素直に伝えるべきか?

だが引き合わせていつものごとく喧嘩を始められたら困る……凄く困るぞ……クソッ、どうすればいい?


まさか話しかけられるとは思っていなかった所に地を這うような声をかけられた事もあり、答えに詰まってしまう。

だが、周囲に目を走らせていた姉は何故か急に顰め面をやめ、扉の向こうへと戻って行った。



――助かった。


ホッと胸を撫で下ろそうとしたが、違和感……いや、『警告』が頭を過ぎった。

なぜハンコックは戻って行った?

ルッチと並んで気性が難しく将来が心配な姉が、

己の癇癪より優先する事など限られている。


共に泥遊びをするくらい、

それで服をダメにしても楽しそうだったからとただそれだけで上機嫌になるくらい、

ハンコックが溺愛しているただ1人の存在――



「ルフィを蹴るとは何事じゃ!!! そこになおれルッチ!!」



気付いた時には遅かった。

ああ、これおれ達の部屋かな……おれ達の部屋だよな……。

止めに行かなければならないんだろうか、と

助けを求める気持ちで頼れる三男の方を見た。



「ぅえ、おれッ……おれちゃんといった、ヒック……ちゃんと言ったもん……」

「ああ、そうだなサボ。信じる。お前はちゃんと言ってたな」

「サ、サボ、忘れてた兄ちゃんが悪かった! ハデに謝るから!」


年1クラスの大事になっていた。マジか。



助けてくれる筈だったスモーカーの兄貴は

申し訳無さそうな目でこちらを見返してきた。


……分かった、分かったよ。

こっちはおれの方で何とかする。



重い足を引きずりながら部屋に向かう道すがら、


「ぎゃあああああ!! ねぼうしたああぁあああぁぁ……!!!」


と叫びでドップラー効果を利かせながら大慌てで走っていく末っ子とすれ違った。

……お前きっと大物になるぜ。




「わらわは『そこになおれ』と言ったはずじゃが?

 ああ、獣並みのおぬしにも分かるよう『おすわり』と言うべきじゃったな」


「テメェの足置きとばかり話していて人との会話のし方を忘れたのか?

 『ルフィを起こして頂きありがとうございます』だろ」


「貴様が起こさずともわらわがこの手で優しーく起こしておったわ。

 弟を足蹴にするような輩には人との接し方を指南されとうないの」


「その『優しい起こし方』でルフィが起きたことなんざ一度もなかっただろ。

 学舎で人間を家具扱いしてる女が人の扱いを語るつもりか?」


「ほう? 家の外での振る舞いついて貴様が人に言えたことか?

 つい先日ヤンチャな高校生に『挨拶』して兄者らに頭を下げさせた事をもう忘れたのか?」


「ああ? 警察沙汰ならテメェだって

「待てルッチ、ローがおる」


…………。


何で警察が出てきておれには聞かせられないようなエピソードをよそで作ってるんだよ。

こいつ等と中学の在学時期が被っていなくて本当に良かった。



気まずい沈黙の中、バツが悪そうにルッチが口を開いた。


「……ここで何してる、ロー」

「おれ達の部屋だろ。

 そっちこそ何してるんだよ。

 今がどんな状況か分かってんのか」


何とは聞いたが、誰がどう見ても姉弟喧嘩をしているのは明らかだし、

クソ忙しい朝に下の兄弟達の部屋で喧嘩を始めるなど、

どんな不平等な判定人であろうと『悪』だと断定してくれるだろう。

例え判定人がこの世の不平等を体現しているような旁若無人な姉弟達であってもだ。


反省をしろ反省を。

つか何で朝からそんなに気が立ってるんだよ。


産まれた時に天と地を指し示してそうな連中だが、頭が悪い訳ではない。

むしろ馬鹿であったならどれほど世の為になったかと嘆きたくなるくらいだ。

自身が不利にならない一線は弁えていたはずだろう。


「……仕方がなかろう、見よこの人を見下した傲慢な態度。腹立たしい」

鏡を見てこい。そいつと同じくらい偉そうなやつがいるから。


「人を見下した傲慢な態度……? テメェ鏡見たことねぇのか?」

お前が言うな。もうこいつ等の間に鏡と言ってガラス板を置いて立ち去っても良いだろうか。


「鏡を見るべきは貴様じゃ。まさかその珍妙な上着で外に出てこの家の表札に泥を塗るつもりではあるまいな? 何が気に食わないのじゃ。その下衣なら5日前に着てたニットでも合わせればよいじゃろうが。頭が悪いのか? 厚顔無恥のバカ者が服を着て歩いておるような男なのじゃからせめて上から被る服装くらいはまともにせよ」

「格好ならテメェこそ何とかしろ。上着どころか頭から足先まで寝間着のままじゃねぇか。着る服が思いつかねぇなら先週買ったセットアップでも着てろ。テメェで買った物の存在を忘れてるのか? それとも常識的な衣服の定義すら忘れたのか? 顔で覆えるバカさには限度があるんだから人前に出ても恥ずかしくない格好ぐらいはしろ」


「は?」

「あ?」

「おいバカ共」

おれはバカ共にも理解できるよう繰り返した。


「ここは、おれ達の、部屋だ。分かるな?」


「……」

「……」


気に食わないと言いたげに鼻を鳴らす、

苛立たしげに舌打ちをする、

それぞれ個性豊かに高慢な反応をしつつも矛を収めた愚姉と愚兄は、

自分達の喧嘩で散らかした部屋を片付け始めた。


いや、いいよ。マジでいいから。今更そういうのは。


また喧嘩を始める前に出ていって欲しいが、

流石にそこまで口にしてしまえばただでは済まない。

奴等は心が狭いし年功序列は悪しき風習である。



言い争う素振りを少しでも見せたら即座に引き離そうと

表面上は殊勝に片付けをする姉弟に目を光らせていたが、

意外なことに何事もなく部屋は整頓されていった。


後始末があらかた終わったところで

ルッチがハンコックに何かを差し出した。

「ん」

「なんじゃ。……ああ、それか」


受け取ってこちらに向かってきた姉は言い放つ。


「ロー、そなたの探し物じゃ。

 大方昨夜のサボが引っ掛けてここまで持ってきてしまったのじゃろう」


見つけてやったぞ感謝しろと言わんばかりの態度で渡されたが、

姉貴も見てたのか? 姉貴も言わなかったのか? と責める気持ちを堪えるのに必死で

「あ、ああ……うん……」

と煮え切らない返事とともにチケットを受け取ることしかできなかった。


この姉にしてこの弟ありである。




無事におれ達の部屋を出て各々の部屋に向かっていく2人を確かに見届けてからリビングに戻った。


「…………」


テーブルにつくと、今日の食事当番である長男が無言で皿を置いた。

鮭の切り身が半切れほど増量されていた。

労いだろうか、涙が出そうになる。


ちなみに見てたんなら手伝えとか思ってはいけない。

朝食の支度は大事だし、

何よりこの家でトップの権力者へ返すべき答えは

『サー・イエッサー』のみだからだ。



サボとバギーの和解も成立したらしい。

疲れ切った顔をしたスモーカーの兄貴と共に3人が席につく。

もう半切れの鮭は恐らく三男のもとに送られるだろう。

ルフィから心配そうに話しかけられたサボは恥ずかしそうに笑顔を返している。



最後にリビングへと戻って来てテーブルについたハンコックとルッチは、

互いに会話どころか目も合わせない。いつも通りだ。

2人共に寝間着から外出着へと着替え終えていた。


ハンコックはハイウエストのキュロットパンツと揃いのジャケットに、

シンプルなブラウスを華やかなスカーフで飾っている。

アイボリーのセットアップを着ている姿には見覚えがない気がする。

ああ、先週買ったんだったか。


ルッチの方は細身の黒いパンツにライトブルーの緩いニット、

ステンカラーコートの濃いチョコレート色が全体の雰囲気に甘さを加えている。

言われてみればそのニットは5日前に別のと合わせて着てたな。

その組み合わせ方は初めて見るが。


どちらも顔とスタイルの良さを引き立てる名コーデだ。

蛇のように気難しいかつ猫のように気紛れな2人が大人しく着ている辺り、

今日の気分にも合っているのだろう。


……何で皮肉の応酬の中で言われた服を素直に着てるんだよ。



ハンコックとルフィの泥遊び、

ルッチが最近高校生と乱闘した事実、

朝からの2人の不機嫌さと着替えの遅さ、


諸々が頭を過ぎっていき1つの結論へと収束していった。



――ああはなるまい。



1つ上の兄とその1つ上の姉を見ながら、おれは心の中で固く誓った。



例えおれが奴らと同じ年の頃になったとしても、

あんな面倒臭い生物には決してなるまい、と。





残念ながら中学生になったローは


『あの姉弟にしてこの弟あり』


と言われるほど面倒臭い生物になるのだが、

今の彼には知る由もない事だった。


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