即興合奏(アドリブ・セッション)
~♪~♪~
スリラーバークの墓場にて、ブルックは一人ヴァイオリンを奏でる
曲は自身と仲間達の大好きなあの唄で、陽気で穏やかな音色が墓場に響く
その時、何者かがブルックの傍に現れた
それは彼が新たに加入した海賊団の船員で、先日の戦いとその後の“取引”で深いダメージを負って眠り続けていた剣士だった
「ああ…びっくりした。……あなた、もうよろしいんで?」
「ああ、ちょっと寝すぎた」
ゾロは手にしていた刀を地面に突き立て、ブルックの隣に腰を下ろす
「それは……?」
「“雪走”、死んだ刀だ。ついでに供養させてくれ」
そう言ってゾロは目を伏せ、静かに手を合わせる
その様子をブルックは眺めながら、先日の事を思い出していた
(ルフィは、海賊王になる男だ!!!)
あの時、船長と仲間達を守るために自身を犠牲にしようとした男の放った言葉
ただ見ていることしか出来ない状態で聴いたその言葉と彼の覚悟の重みを、ブルックは骨だけの身体でひしひしと感じ取っていた
「……あの……」
「ん?」
ブルックはゾロにあの時の事を話そうかと考えたが、いざこちらを向いた彼を見て急に迷いが生じた
「あー…いえ……そうだ。私、一味に入れて貰いました」
ない視線を泳がせながら少し考え、結局は当たり障りのない加入報告になった
すると、ゾロはいつの間にか仲間になっていたこのガイコツに「そりゃ運が悪かったな」と笑った
「この一味は手ェやくぞ?」
「ヨホホ!!そのようで!!死ぬ気で頑張ります!!あ!!私もう死んでましたけど!!」
そう言って笑うブルックにゾロがフッと笑い返した
「あ、そうだ」
不意にゾロが思い出したように声をあげ、懐から何かを取り出した
それは、一本の横笛だった
「おや、ゾロさんも楽器を持ってらしたんですね。それは、横笛ですか?」
「ああ。篠笛っていってな、おれの故郷にある楽器なんだ」
そう言うとゾロはブルックの方を向き、興味深げに笛を見つめる彼に笑う
「ブルック」
「?」
「ちょっと合わせられるか?」
「ええ、おまかせください」
ブルックは頷くとヴァイオリンを構えた
~♪~♪~
~♪~♪~
凛とした笛の音色に穏やかなヴァイオリンの音色が重なる
二つの音は出会ったばかりであるというのに、決してぶつかる事なくお互いを引き立てる
その音に内包された感情は様々だが、決して後ろ髪引かれるようなものではなかった
やがて演奏が終わり、周囲を再び静けさが包んだ
「急な事言ったのにすげェな。さすがは本職ってところか」
「ヨホホ、ゾロさんもお上手でしたよ」
ブルックの言葉にゾロは「そうか」と返す
「“その方”も、ゾロさんの演奏が聞けて喜んでると思いますよ」
そう言って微笑むブルックがない視線を向けるのは、地面に突き立てられた刀
ゾロは「そうか、そうだといいな」と返し、小さく笑った