(単発SS)(まだメンタル弱かった頃の13歳兄ちゃ)

(単発SS)(まだメンタル弱かった頃の13歳兄ちゃ)


みんなが口を揃えて言う。

 君は産まれながらの女王様なのだと。

 だったらこれは、女王様になるべくしてなった生き物が、そのままあるべき姿で幸せに暮らしました、めでたしめでたし、で締め括られる物語なのだろうか。

 そんなものクソ喰らえだ。


「君は天性の女王様だ、女王様の名に相応しい、女王様として扱われても仕方ない、諦めて女王様を楽しんだらどうだ…………どいつもこいつもうるせぇよ」


 惜しみなく浴びせかけられた言葉の数々を吐き捨てて、冴は苛立ちをぶつけるような荒々しさで宿舎の扉を閉める。

 今日も散々だった。サッカーではない。それ以外の全てがだ。

 13歳で日本を離れてスペインで暮らし始めてから数ヶ月。次の誕生日も迎えていない内に日本で人から貰ったことのあるプレゼントの総数をとっくに超えてしまったのは、スペインで自分を女王様と仰ぐ男が急増し初めて頼んでもいない貢ぎ物を断っても断っても持って来るから。

 スタッフに声をかけてどうにかしてくれるよう頼んでも、そのスタッフが気付けばマゾヒストの一派と化して、貴方を慕う犬達は外にもいるんですよ、などと嘯き余計に貢ぎ物の量が嵩む有様。

 少数のマトモな人間は「みんな冴くんが好きなんだよ」という上っ面の言葉の裏に「面倒だから諦めて女王様をやってくれ」という真意を潜ませている。

 地位も名声もある人間たちが奇行に走り、その矛先が向いているのはまだこの国ではどちらも持たない、あるのはサッカーの才能と美貌だけの少年。我慢させるならどっちが手っ取り早いでしょうか、なんて簡単ななぞなぞ、勉強に興味の無い冴でも即答できる。つまりはそういう事なのだ。

 言い返せなかった自分に少し失望しながら帰って来た。ああ、早くもっとサッカーが上手になりたい。


「……映像を見て研究して、明日の練習に活かそう。周りの誰よりサッカーで強くなって金持ちになれば、誰も俺に女王様なんて押し付けなくなる」


 閉じた扉に背を預けてずるずるとしゃがみ込み、膝を抱えて冴は呟く。

 人の好意と悪意の一つ一つが、透明な手となって冴の体中に絡みつき、用意された玉座から離れさすまいと抑えつける。

 そんな幻覚がここ最近は頭から離れなかった。

 それでも人々は、豪華絢爛な椅子に君臨する姿を女王様と呼ぶのだ。

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