単発SS)(うっかり闇オークションにかけられる中学生くらいの兄ちゃ)

単発SS)(うっかり闇オークションにかけられる中学生くらいの兄ちゃ)





 人の悪意と下心と好奇心がへばり付いている。

 漂ってくる上流階級の客たちの香水で良い匂いがしている筈なのに、酷い悪臭が立ち込めている気がして冴は巨大な鳥籠の中で眉を顰めた。

 言うまでもなくこの鳥籠は自宅の家具ではない。冴は現在、趣味の悪い金持ち向けの違法人身売買……いわゆる闇オークションの会場にて囚われの商品と化している。

 最近はスペインでの暮らしに慣れてきたからといって、1人で人気の少ない場所を通ったのが悪かった。いかにもな黒塗りの車に横付けされたと思えば、扉から出てきた手に体を引き摺り込まれて薬を嗅がされて、目が覚めたらこのザマだ。

 ご丁寧に着替えもさせられている。古代ギリシャの貴族や王族の人々が着ていそうな、手触りの良い白い布をワンピースみたいに体に巻き付けて貴金属の飾りで留めたアレだ。手首足首には月桂冠を模した意匠の枷もハメられている。股ぐらがスースーするから下着は穿かされていない。

 放り込まれている鳥籠の内側にもクッションがあり尻を痛めないようになっていて、格子に薔薇や蔓が絡まっていたり所々に宝石が散りばめられていたりとかなり豪華なラッピングだ。

 自分はかなり目玉商品の部類に違いないと鈍くても察せられる厚遇である。まあ嬉しくはないが。


「サッカー以外に女王様やるだけでも面倒なのに、この上性奴隷なんざ死んでもゴメンだ」


 当たり前のことを溜息と共に吐いて、冴は備え付けのクッションに身を預ける。なんとかしてここから脱出せねば。それが無理なら買い取られた後で飼い主の屋敷から逃げ仰るしかない。

 だがこういうイベントでは、そもそも落札される前からステージの上で裸に剥かれたりあちこち弄られることもあるらしい。知り合いの腐女子兼S嬢が言っていた。冴は人目に痴態を晒すのを避けたい程度にはプライドが高い。やはり今の内に逃げ出しておきたかった。


「おっと、逃げ出そうなんて考えるんじゃないぞ“お嬢ちゃん”。安心しな。そのツラなら命までは取られねぇよ」


 見張と思われる屈強な男が下卑た笑みで話しかけてくる。やたらとニヤついている辺り、冴がどういう用途で買われるか予想はついているのだろう。なんなら男のポケットからはみ出しているのは冴が履いていたボクサーパンツの端だ。持ち帰る気かコイツ。

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