卑怯者! これは負け惜しみなんかじゃない!!
このssにはキャラ崩壊が含まれます!
ご注意ください!
晴れ渡る満月の夜、ある無人島にて、ルフィとウタは船を停泊させていた。
海上と違い、島周辺の気候は安定しており、かつこのような地図にも載ってない小さな無人島は
様々な追手から隠れるのに最適であった。
小さすぎて食料や真水の確保が不可能なため、定住には適さないものの
二人揃ってぐっすり眠れるのは、このような場所しかなかった。
「デッッッケェ満月だな~~~~。こんなに明るいならランプもいらねぇなぁ。」
「本当…、こんな月明かりの下でディナーなんて、ロマンチックだね…。」
「そうか?別に味は変わんなかったぞ。」
「…ルフィにロマンスを求めた私がバカでした。」
ウタ的にはロマンチックなムードも、ルフィの前ではすぐ霧散してしまう。
もっとも目の前の男はこんなの日常茶飯事だ。ウタもこれくらい予想していたし落胆もしなかった。
「ウタの料理はいつだって最高だからな!朝も昼も夜も晴れても曇っても、ウタの料理が美味いのは変わんねぇ!」
こんな美味いもん食えるなんて、俺幸せもんだな~~ とルフィはシシシ、と笑う。
これは予想外だった、そもそも予想できないときにこういうことを言うのだ、この男は。
(~~~~~~~~ッッッ!!卑怯だ!これは卑怯だ!!この卑怯者!!!)
心の中で精一杯の罵倒を繰り返すウタ。耳まで真っ赤なのが自分でもよくわかる。
さっきまでムードを演出してくれた満月が恨めしい。
そんなに光るな、隣の卑怯者に顔真っ赤なのがバレてしまうではないか。
「なあ、ウタ。明日の朝飯、目玉焼きトーストでいいか?」
「…いいもなにも、肉料理以外だとレパートリーそんなにないんでしょ…」
おそらく満月から目玉焼きを連想したんだろう。
あまりにも安直すぎて、顔に集まった血の気が下がった。助かった。
しばらく二人揃って、ぼけっと満月を見ていた。
静かだった…。最近は追手の追跡が激しく、こんなふうにゆっくりできるのはいつぶりだろうか。
だからかもしれない、ウタは、自分が思う以上に、気が抜けていたのだ。
「…月が綺麗ですね……。」
「ん?そうだな……海軍煎餅みたいだな!あれもキレイな丸で、しかも煎餅なのに表面スッベスベだった!」
セーフ!!ウタは心の中でガッツポーズをとった。
今の言葉は例のセリフを期待したわけではない、ただ「こういうやり取り聞いたことあるなぁ」という思考が
そのまま口から滑り出しただけなのである。
もし例のセリフが返ってきたら、今度は顔から火が噴出しかねない。
「ウタ!ウタ!聞いてんのか?」
「えっ!?ご、ごめん。ぼーっとしてた…何?」
思考の海に半身沈んでたウタをルフィが呼び起こす。
「いやだからよ、また海軍煎餅、絶対食わせてやるからな!ウタ、あれ大好きだっただろ!!」
「ルフィ…‥‥」
これは好物をウタに食わせてやる、という意味だけではない。
いつか必ず、この逃亡生活を終わらせて平穏な生活を取り戻すという…ルフィなりの誓いだった。
「うん…そうだね、その時は一緒に……ガープおじいさんやサカズキさん、それにスモーカーさんやたしぎさんにコビー君とヘルメッポ君
みんなと一緒に食べよう!」
今世界中が敵だった、この逃亡生活に出口どころが一寸先すら見えない
それでも、ルフィと一緒ならきっと何とかなる。いやしてみせるのだ、自分も…ルフィの力になるんだ。
ルフィの誓いに対し、ウタもまた決意を新たにしていた。
「ふあ~~~~…。ウタ、俺眠くなってきたから、先にベッド入ってるな。」
「うん、私はもう少しお月様見てるよ、おやすみルフィ。」
二人の寝室へ入ろうとするルフィ、が寸前でウタの方を振り返った。
「ウタ、俺は…お前と一緒に居られるなら死んでもいいぞ。」
まあ、死なねぇし、死なせねぇけどな! そう言い残して今度こそ寝室に入った。
耳までどころか全身真っ赤になりそうなウタを残して。
(~~~~~~~~~~~~~!!!!)
余りにも卑怯すぎる不意打ちに、もはや悶絶することもできないウタは、ただただうずくまるだけだった。
互いを愛し合う恋人たちを、満月だけが見ていた……