北生まれで能力の強いρさん
俺はとある船の船員だ。
今は、とある島で食料の買い出しをした帰りである。
今日は海が荒れていたため、想定よりも島に着くのが遅くなってしまった。買い出しが終わった頃には斜陽で空が染まっていた。
船長たちが待っている、そう思い気持ち駆け足で橋を渡ろうとした時だった。
「私、キレイ?」
正面から、よく分からない女性が話しかけてきた。
口にはマスクをつけているため、顔全体は分からないが、目元は整っており、長い髪も美しい。ボア・ハンコックほど美しいかと言われると困るが、特別否定するものでもない。
「キレイだと思いますよ」
俺は平凡ながら、そう返した。
すると、彼女は耳元に手をかけ、自分のマスクをゆっくりはがす。
「 こ ん な 顔 で も ? 」
彼女の口は、耳元まで裂けており、ギラギラと歯を輝かせていた。
突然のことに驚き、俺は腰を抜かして尻もちをつく。
そんな俺にお構いなしに、彼女は背中から鉈のようなものを取り出して振りかぶる。
「助けてっ……船長ー!!」
「ROOM」
そのとき現れたのは、北の海生まれで悪魔の実の能力が強いロー船長だった。
彼女の鉈が振り下ろされる瞬間、俺は小石とシャンブルズされ、間一髪助かった。
「天竜人か誰かに顔を裂かれたのか……同情するが、それで八つ当たりされる側はたまったもんじゃねェ」
ロー船長は彼女の顔の前で指を振ると、彼女の裂けた口が縫い合わされていく。
気が付くと、まるで傷なんてなかったような美貌がそこにあった。
「えっ……えっ……?」
「すげェ……本当にキレイだ……。」
ロー船長は意にも介さず、俺が転がしてしまった食料を拾い直して帰ろうとしていた。俺も置いて行かれる訳にはいかない、残りを拾い集めて、ロー船長の背を追いかける。
「あの……ありがとうございました!」
彼女は深々とお辞儀をして、満面の笑みを浮かべていた。
その目から零れ落ちる涙が、夕日によって輝いて散る。
「ケッ……麦わら屋にバラすなよ。人助け紛いなことをしたなんて口が裂けても言うな」
やっぱり船長はすごい。俺はそう思わずにはいられなかった。