vs海軍艦隊(スタンピード編)

vs海軍艦隊(スタンピード編)


海賊万博。

多くの海賊達で賑わっていた会場は、“鬼の跡目”ダグラス・バレットの出現と、会場に向かって来る海軍の大艦隊によって、パニックに陥っていた。

万博の主催者であるブエナ・フェスタが、自分達を海軍に売った事を悟った海賊達は、大慌てで会場から逃げ出そうとする。

それは、麦わらの一味も例外ではない。


「うわ、撃ってきた!?」

「立ち止まるな、狙われるぞ!!」


海軍の軍艦から砲弾が飛んで来る中、ゾロとウタはと言うと、バルトロメオやキャベンディッシュといった麦わら傘下の海賊達を引き連れて移動していた。

ルフィはバレットと戦闘中。

ウソップはバレットにやられて戦闘不能状態。

ナミとフランキーは島の入り江付近で、サニー号の出航準備を整えている真っ最中。

サンジ、ロビン、チョッパー、ブルックはトラファルガー・ローと共に、ブエナ・フェスタの動向を探るため、別行動中でこの場にいない。

そこで、残ったゾロとウタの二人は、脱出のための道を切り開くべく、バルトロメオ達を連れて海軍の艦隊を相手取る事になった。


「ルフィ達が戻って来るまでに、おれ達で軍艦を減らして道を作る!!」

「その間、ロメオ君達はサニー号をお願い!! 頼んだよ!!」

「(うおおおお!? ゾロ先輩とウタ先輩からの任務!?)ずびィ……任せてけれ!!命に代えてでもお守りするべェ!!」


ゾロとウタから重要な役目を任され、バルトロメオは感動のあまり涙を流すも、すぐに涙と鼻水を拭って真剣な表情に戻る。

それから運河の出口付近の海岸まで移動したゾロ達は、それぞれの武器を手に取り戦闘態勢に入る。


「さて、あの軍艦の数だ。どう道を切り開くか」

「ある程度は減らしておきたいよね…!? ゾロ、右!!」

「!?」


何かが来る。

ウタは僅かな風の音で、ゾロは圧倒的な威圧感でそれを察知し、ゾロが三本の刀で防御の構えを取る。

次の瞬間、藤色の装束に白い外套を纏った盲目の男が、海軍の軍艦から猛スピードで島まで飛来し、ゾロに斬りかかって来た。

その男の姿を見て、一同は戦慄する。


「どええええ!? 藤虎だべえええええ!?」

「賭博のおじさん…!?」


まさか、初っ端からいきなり海軍大将が参戦するなんて。

バルトロメオが頭を抱えて悲鳴を上げ、ウタがドレスローザで出会った時の事を思い浮かべる中、ゾロは目の前の強敵———藤虎を前に笑みを浮かべる。


「いきなり大将か…!!」

「この戦い、どのような正義がありますやら、自分で確かめてェと思いやして」


ゾロと藤虎が戦闘を開始する一方、海軍の艦隊でも動きがあった。

大量のパシフィスタを引き連れた戦桃丸が、海兵やパシフィスタ達に大声で命令を下す。


「大将藤虎に続け!! 海賊は全員捕らえろ!!!」

「「「「「うおおおおおおお!!!」」」」」

「っ……全員、構えて!! 一斉に来るよ!!」


島に乗り込んだ海兵やパシフィスタが、海賊達を捕らえるべく一斉に突撃する。

ウタはバルトロメオ達と共にそれらを迎え撃ち、逃げ惑っていた他の海賊達も戦闘に突入した。

ゾロは藤虎と一対一で激しく切り結び、フランキーはフランキー将軍に乗り込んでパシフィスタを相手取り、バルトロメオやキャベンディッシュ達はサニー号の防衛に回り、ナミは魔法の天候棒(ソーサリー・クリマ・タクト)で雷を落として海兵達を圧倒していく。

そんな中、ウタモルフォーゼで黄金鎧を纏ったウタは、巨大な鉞を構えた戦桃丸と対峙していた。


「“激しく即興曲(アジタート・アンプロンプチュ)”!!」

「フン…!!」


ヒポグリフに内蔵された風貝(ブレスダイアル)の噴出力を活かし、ウタが繰り出す連続突き。

戦桃丸はその場から動かず、飛んで来る突きを鉞で的確に防御していく。

その攻防の中、一瞬の隙を見出した戦桃丸は、鉞を持っていない左手で強力な突っ張りを放つ。


“足空独行(アシガラドッコイ)”!!!

「うわ!?」


戦桃丸の放った突っ張りが、飛んで来たヒポグリフの突きの軌道をズラし、それによりウタは態勢を崩されてしまう。

そこに戦桃丸が鉞を振るい、それをヒポグリフで防御したウタは地面を滑り、大きく後退させられた。


「ハァ、ハァ…やっぱり、守りが固い…!」

「チッ……シャボンディ諸島で逃げられた時より、強くなってやがる…!」


戦桃丸の高い守備力を前に、ウタは上手く攻め切れないでいた。

一方で戦桃丸も、突っ張りを放った左手に残った痺れから、ウタが以前よりも更に強くなっている事を察し、厄介そうに舌打ちする。

両者の実力は拮抗していた。


「マーッハッハッハッハァ!!」

「「!?」」


その時、大きな笑い声が聞こえてきた。

ウタと戦桃丸が振り向いた先では、巨大な海賊船が他の海賊船を押し退け、強引に島から脱出しようとしていた。

その巨大な海賊船“新ブリキング号”に乗っていたのは、元ドラム王国の国王にして現悪ブラックドラム王国の国王“ブリキのワポル”率いるブリキング海賊団だった。


「カバ共め!! 海軍が手薄の隙に逃げ出してやるぜ!!」

「何!? あいつは確か…!!」

「あぁ!? あの時の雑食おじさん!! 先に逃げるなんてずるい!!」


世界政府加盟国の国王が何故こんな所にいるのかと驚く戦桃丸と、自分達だけ先に逃げようとしているワポル達に憤慨するウタ。

しかし、その時だった。




ズバァァァン!!!




「「「「「!?」」」」」


突然の斬撃音。

それと共に、ワポル達の乗っていた巨大な海賊船が、一瞬にして真っ二つに両断されてしまった。

藤虎と対峙していたゾロは、その光景を見て驚愕した。


「!? まさか…!!」


真っ二つにされた新ブリキング号の先に見える、十字架の帆柱を立てた小さな小舟。

その小舟の椅子に優雅に座っていたのは、世界最強の剣豪として名高い男。

王下七武海の一人、“鷹の目”ジュラキュール・ミホークだ。


「鷹のおじさん!? どうしてここに…!?」

「“鷹の目”ェ!! 来るのが遅ェ、招集はかけていたはずだぞ!!」

「…ヒマつぶしだ」


ウタも驚いている中、戦桃丸は遅れてやって来たミホークに抗議する。

しかし、ミホークはだるそうな表情で一言そう告げるだけだった。

立場上は政府や海軍の味方である七武海だが、所詮は海賊、必ずしも素直に言う事を聞いてくれる訳ではない。

自由気ままなミホークに苛立つ戦桃丸だが、そこはひとまず切り替える事にした。


「チッ、厄介だな七武海……まあいい。パシフィスタ、海賊をやれ!!」


パシフィスタ達に指令を下し、海賊達を一網打尽にしようとする戦桃丸。

しかし、そんな彼の背後から突如、何者かの声が聞こえて来た。


“ネガティブホロウ”!!

「うおっ……生まれてきてすいません…」


戦桃丸の胴体を、謎の白い幽霊が通過する。

その途端、戦桃丸はその場に膝を突き、物凄い勢いでネガティブになり始めた。

彼の周囲には同じようにネガティブになっている海兵が多数おり、その様子をゴスロリっぽい衣装の少女“ゴーストプリンセス・ペローナ”が面白そうに眺めていた。


「ホロホロホロホロ♪ かわいくねェな、お前」

「うわあ……やっぱりずるいよ、あれ」


宙に浮遊しながら楽しそうに笑うペローナを見て、ウタは思わず苦笑した。

ペローナの繰り出したゴーストに触れた者は、(ある例外を除いて)ネガティブな思想に陥ってしまう。

かつてスリラーバークで同じように喰らった事があるウタは、ネガティブにさせられてしまった戦桃丸や海兵達に思わず同情してしまった。

そんな時、今度は別の場所で砲撃音が聞こえてきた。

ウタが振り向いた先に見えたのは、双頭の蛇を船首にいただく海賊船“パフューム遊蛇(ユダ)号”。

その近くでは、船ごと石化しているフォクシー海賊団の姿もあった。


「誰じゃ一体! わらわの通り道に、海賊船を置いたのは…!」

「おいおい、ありゃあ…♡」

「七武海、海賊女帝……ボア・ハンコックだべェ!!」


パフューム遊蛇号に乗って現れたのは、七武海の一人にして絶世の美女“海賊女帝ボア・ハンコック”。

妹のサンダーソニアとマリーゴールドを付き従えながら、ハンコックは堂々と言い放つ。


「わらわが何をしようとも、世界中がそれを許してくれる。何故なら…わらわが美しいから


「「「「「うひょおおおおお♡」」」」」

「味方になれば心強い!! 行け、七武海!!」

「黙れ!! ルフィはどこじゃ!?」

「「「「「ええ!?」」」」」

「あれって確か、ルフィが世話になったっていう…」


海賊達も、海兵達も、ハンコックに心を射止められてしまっていた。

海軍将校の命令も容赦なく無視し、ルフィはどこにいるのかと問い詰めるハンコックの姿を見て、ウタはルフィがハンコックに色々助けて貰ったという話を思い出していた。

七武海のミホークやハンコックまで参戦し、更に激しくなっていく戦い。

しかし戦いが長引く中で、一つの動きがあった。


「! ……戦局が変わりそうだ。勝負はお預けで」

「何?」


何かに気づいた藤虎は、瞬時に弧を描くように刀を振るい、自身が持つズシズシの能力のエネルギーを遥か上空に打ち上げる。

それからすぐに藤虎は刀を鞘に納め、その場を立ち去っていく。


「こいつは、餞別でさァ」

「待ちやがれ……っ!?」


藤虎の後を追おうとしたゾロだったが、謎の空振が周囲を震わせる。

それにより足を止めたゾロは、上空を見て目を見開き、汗を流した。

ズシズシの能力により、遥か上空から巨大な隕石が、赤く光り輝きながら落ちて来ているのが見えたからだ。


「どうなってんだ…!?」

「い、隕石!? 退避、退避ー!!」

「どええええ!? でか過ぎるっぺェ!!」

「嘘…!? あんなおっきいのが、島に落ちたら…!!」


間違いなく、島にいる皆が無事では済まない。

海賊や海兵達が慌てて逃げ出し、バルトロメオが悲鳴を上げる中、ウタは巨大隕石をどにかしようと背中に翼を出現させる。

が、それよりも前に、ゾロが素早く動き出した。


“九山八海一世界(くざんはっかいひとせかい)、千集まって小千世界(しょうせんせかい)”……!


刀に武装色の覇気を纏わせ、ゾロが宙に高く跳躍する。


“三乗結んで、斬れぬ物なし”……“三刀流奥義”!!


両手の刀を回転させながら、ゾロは巨大隕石に向かって突撃する。


「“一大・三千(いちだい・さんぜん)”……」


「“大千・世界(だいせん・せかい)”!!!」


ゾロの大技が決まり、一閃された巨大隕石が真っ二つに割れた。

その光景を見たバルトロメオは「ゾロせんぱあああい!!」と泣きながら歓喜の叫びを上げた……が。


「!? 駄目、まだ止まってない…!!」

「ゾ、ゾロぜんばあああい!?」

「くっ、間に合うか…!?」


巨大隕石は、まだ止まっていない。

真っ二つに斬れただけで、巨大隕石は今もまだ島に向かって落ちて来ている。

流石のゾロも表情に焦りが見え始めている。

これは自分も動くしかないと、ウタが背中に出現させた翼を使って上空に飛び立とうとした……次の瞬間。




ズバアアアアアン!!!




「うおお!?」

「「「「「!?」」」」」


一瞬だった。

ゾロの目の前で、巨大隕石が小さく細切れにされた。

地上からそれを見ていた海賊や海兵達は驚きの声を上げ、ウタも思わず圧倒されてしまった。


「「「「「ええええええ!?」」」」」

「今のって、もしかして…」


こんな事ができそうな人物は、一人しかいない。

それをやったと思われる人物のいる方向に、ウタが視線を向ける。

地上に着地したゾロも同じように、巨大隕石を斬ったと思われる人物をまっすぐ見つめていた。

ミホークだ。

地上でゾロの奮闘を見届けていたミホークが、背中に背負っていた黒刀“夜”を引き抜き、巨大隕石を一瞬にして細切れにしてみせたのだ。

細切れにされた隕石の残骸が海へと落ちていく中、ミホークはただ静かに、ゾロと視線を合わせて笑みを浮かべている。

その笑みはまるで、弟子の成長を見て喜んでいるかのようだ。

しかし、何かに気づいたミホークはすぐにその笑みが消え、夜を背中に納めた。


「ここから先は協定外になりそうだ。行くぞ、ゴースト娘」

「あたしに命令するんじゃねェ!! てか、隕石斬るなら早く言え!! ビビったじゃねェか……」


文句を言い放つペローナを連れて、ミホークは島を去って行く。

どこまでも自由過ぎる彼だが、衝撃的過ぎる光景を目撃してしまったからか、海兵達は唖然としたまま、立ち去るミホークを呼び止める事もできなかった。


(すごい……あれが、世界最強の剣豪……ゾロが追い抜こうとしている人……)


ミホークの後ろ姿を見つめながら、ウタは過去にシャンクスから聞いた話を思い出す。

かつて、シャンクスが「伝説」と謳われるほどの決闘を繰り広げたというミホーク。

海上レストラン・バラティエでゾロが挑んだ時、ミホークは一太刀も浴びる事なくゾロに完勝してみせた事から、ウタもミホークの強さはある程度は知っているつもりでいた。

しかし、たった今ミホークが見せた剣捌きは、ウタの想像を遥かに超えていた。

それと同時に、ゾロが進もうとしている道がとてつもなく険しい事も、ウタは理解させられたのだった。











「あれ? ところで鷹のおじさん、ただ海賊船と隕石を斬っただけじゃない?」


結局、七武海としての仕事は何もしていないのでは?

あまりにも自由過ぎるミホークに、ウタは再び苦笑いを浮かべたのだった。

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