勝負服を考えようの巻

Q.どうしてこんなことになったんですか?
A.担当した職人がゲスメガネの子孫だったんでしょ
「さて、ラジオNIKKEI賞を勝ったから晴れてオープン入りだ。おめでとう。
……というわけで、そろそろ勝負服の申請もしないといけないんだよな」
勝負服。
GⅠという特別な晴れ舞台にのみ着ることを許された、ウマ娘達の憧れ。
重賞を制覇し、秋のGⅠ戦線の新勢力と期待するメディアも増えれば
勝負服を作ろう、という流れになるのは当然のことといえる。
「あたしはフリフリの可愛いのとかドレスみたいなのは似合わないから、こういうのでどうかなーって」
ギャラントクイーンが見せたスマホの画面に映っているのは、所謂レースクイーンの衣装。
長身で同年代よりも若干大人びた彼女には似合っていると言えなくもない。
「なるほど、これをベースにアレンジしていけば走っても大丈夫そうだね」
そんな事を話す2人の目の前には様々な生地のサンプルや色見本、そして紙とペン。
その一つ一つを手に取って、感触や機能性を確かめながらスケッチを描いていく。
「……で、放熱とか考えたらいっそもうこの辺の布はなくてもいいと思うんだよね」
「いや、それは流石にやめたほうが……」
「大丈夫大丈夫、このくらい大胆な方がウケるって!」
「……いやそういうの求められてないし……たぶん……」
紙の上に走るペンの描く線が、夢の舞台に挑む少女の理想を形にしていく。
その隣で線を見ながら、一抹の不安を感じるトレーナー。
彼の不安が現実のものとなるのはその一週間後――勝負服の試作品が出来上がり、いざ試着となった日の事であった。
勝負服に身を包んだ担当ウマ娘が、目の前に姿を現す。
本来であれば、その姿はトレーナーにとっても夢への第一歩――のはずなのだが。
「と、トレーナー……着られた、けどさぁ……」
「……わーお」
小さな驚きの声を上げたきり固まるトレーナー。
それもそのはず、そこに立っていたウマ娘が纏う勝負服は――すごくすごかった。
チューブトップ……と呼ぶにはいささか大胆すぎるトップスは、大事な部分こそ隠しているがいささか心許ない面積。
丈の短い上着はせいぜい大きく開いた背中を隠す程度で、前から見れば何の役目も果たしていない。
そんな上半身から視線を逸らそうと下に目をやればそこもまた地獄。
太腿の放熱性と動きやすさを最優先でデザインしたために、タイトなミニスカートの両側にスリットを入れてしまったのが運の尽き。
一応太腿から下は脚の保護と加圧を兼ねたロングブーツで露出こそ抑えられているが焼け石に水レベル。
「……よくよく考えると日曜の午後にこれでテレビに映るのヤバくない?」
「よくよく考えなくてもヤバいし日曜午後と言わず24時間365日ヤバいかな」
赤面しながら小さくなるクイーンを直視できず、思わず目を逸らすトレーナー。
ただでさえ恵まれたバ体を持った自分の担当が、勝負服とはいえこんなとんでもない服を着ていればそりゃ当然である。
「……どうすんだよこれ……リテイク頼むか?今なら秋華賞までには完成するし」
「……い、いやでもこのくらい大胆な方が話題になっていいかもよ!?元々半分それ目的だし!?」
「痴女みたいなこと言わないで!?」
「もうリテイクなしでこれベースで行ってやんよ!ここで退いたら"ギャラントクイーン"の名が廃るってもんでしょ!?」
「そんな所で名前を体現しなくていいんだよバ鹿!」
結局、細かい調整を加えただけのすごくすごい勝負服でGⅠ戦線へと名乗りを上げることになったのはまた別のお話。